パーフェクト・インパーフェクト


「わたしは大丈夫です。むしろなかなかご連絡できずで申し訳ないです」


いきなり事務的なしゃべり方になったわたしに、電話のむこうのバンドマンはまたおかしそうに笑っている。


「うん、もう連絡こないかなってちょっと寂しかった」


なに、そのちょっとだけずるいせりふ!

なるほど、そうやって数々のオンナを陥れてきたんだな!


「だって! でも!」

「うん?」

「そっちは連絡先聞いてこなかったから! あんなふうにメモだけ渡されても! どうしたらいいのやら!」

「ごめん、無理強いはしたくなくて。選択肢はあったほうがいいかなって」


それって、不倫に乗っかる・乗っからないの選択?


受話器のむこうでカチャカチャとなにかが鳴っている。

カチッという軽快なスイッチ音のあとですぐ、コポコポと水のようなものを注ぐ音がした。


飲み物でもいれたのかな。
なに飲むんだろ。

聴覚から生活を覗き見しているようで、妙にどきどきしてしまう。


早いところ本題に入らないとあんまりよくない気がする。

きっとまたあっちのペースになっちゃう。


「デート、いつしてくれるんですか」


こっちはひとり暮らしだというのに、思わず声をひそめてしまった。


「いつでもいいよ」


息を漏らすようにちょっと笑ったあとで、皆川さんはとても軽く答えた。

< 93 / 386 >

この作品をシェア

pagetop