パーフェクト・インパーフェクト
「わたしは大丈夫です。むしろなかなかご連絡できずで申し訳ないです」
いきなり事務的なしゃべり方になったわたしに、電話のむこうのバンドマンはまたおかしそうに笑っている。
「うん、もう連絡こないかなってちょっと寂しかった」
なに、そのちょっとだけずるいせりふ!
なるほど、そうやって数々のオンナを陥れてきたんだな!
「だって! でも!」
「うん?」
「そっちは連絡先聞いてこなかったから! あんなふうにメモだけ渡されても! どうしたらいいのやら!」
「ごめん、無理強いはしたくなくて。選択肢はあったほうがいいかなって」
それって、不倫に乗っかる・乗っからないの選択?
受話器のむこうでカチャカチャとなにかが鳴っている。
カチッという軽快なスイッチ音のあとですぐ、コポコポと水のようなものを注ぐ音がした。
飲み物でもいれたのかな。
なに飲むんだろ。
聴覚から生活を覗き見しているようで、妙にどきどきしてしまう。
早いところ本題に入らないとあんまりよくない気がする。
きっとまたあっちのペースになっちゃう。
「デート、いつしてくれるんですか」
こっちはひとり暮らしだというのに、思わず声をひそめてしまった。
「いつでもいいよ」
息を漏らすようにちょっと笑ったあとで、皆川さんはとても軽く答えた。