パーフェクト・インパーフェクト
それにしても、スースーする太ももが助手席ではあまりに無防備で、いたたまれない。
無意識に膝の上でぎゅっと手を握っていると、最初の信号待ちで皆川さんが後ろを振り返り、後部座席からブランケットを引っぱってきた。
ダークブラウンのふわふわがぽんと手元に置かれる。
男の人がひとりで使う車に、なかなかこんなものは乗っていないはず。
そう思ったらこのブランケットをどうしたらいいのかさえわからなくて、折りたたまれた状態で膝に置いたままでいると、彼が小さく笑った。
「もしかして潔癖症?」
いつも察しがよすぎるくらいのくせに、どうしてこういうときだけ鈍感な男の典型みたいな発言をするんだろ。
わざとやっているのだとしたらタチが悪すぎる。
「……ちがいます。これ、誰のなのかなあって思って」
むっとしたので意図的にいじわるな質問をぶつけてやった。
それなのに、静かにアクセルを踏みだした横顔は余裕綽々の微笑みのまま、1ミリだって崩れない。
「俺の」
たぶん、嘘じゃない。
これはきっと本当に、この人が自分で買って、自分で自分の車に置いたんだ。
だけど自分のために買ったわけじゃないでしょう?
ほかの誰かのために――家族のために、買ったんでしょう?
「ありがとう、ございます」
喉まで出かかった言葉はぐっと飲みこみ、勢いよくブランケットを広げた。
柔軟剤のやさしい香りが、鼻の奥にしみた。