君を好きになるって、はじめからわかってた。

「わっ!!」

 ビクッ!!

「あはははは」

 突然、青柳くんが驚かせるから、ビックリしてしまった。
 隣で彼は、思いっきり笑ってる。

「驚かせないでよ!」
「ごめん! だって先輩、全然怖がらないから。お化け屋敷といえば、女の子が怖がって抱きつくとこでしょ? 俺、寂しいじゃん」
「抱きつくとこかは知らないけど、仮にそうだとしても私は違うから!」
「なんだ残念。先輩は、大丈夫なの?」
「こういうのは慣れた」
「これって、慣れなの?」
「……多分?」
「そうなんだ」

 青柳くんは、顔を反らして笑ってる。
 暗くてよくみえないけど、絶対笑ってる!
 そんな笑うところ?

「なんか、調子狂う」

 つい口から出てしまった。

「先輩の元彼にいないタイプでしょ?」

 なっ、何言ってんの!?
 横に並んで歩く彼が私の顔を覗き込むから、思わず顔を反らしてしまった。
 近い気がしたし、なんだろう顔が妙に熱い。

「付き合ったの1回しかないし、青柳くんに関係ないでしょ!?」

 いや、また私何言ってんの?

「関係なくない。俺にとっては、大事なことだけど」

 またそうやって、急に態度変えて……。
 でも、それがそんなに嫌じゃないなんて。
 さっきから、私どうしたんだろう。
 


「やっぱり、黙ってるのはムリ。フェアじゃない」

 急に足を止めて、彼が言った。

「何が?」
「望月先輩に聞いた。安井先輩に、元彼とのトラウマがあるって。」 

 結菜は~! 余計なこと教えちゃって!!
 
「それも、君に関係ない」

 私はきっぱり言い放ち、彼より先に歩き始めようとしたけど1歩も進めなかった。
 私の腕が、しっかりと彼の手に掴まれてる。

「2人に何があったかなんて知らないけど、俺をそいつと一緒にしないでよ」

 …………。

「俺、本気だよ」

 掴まれた腕を引かれ、今度は青柳くんの腕の中に捕らわれた。

 胸が痛い。苦しい。
 彼の香りに包まれて、このままじゃ暗示にかかりそう。
 ダメだよ。
 

「いや! 俺こんなとこで何やってんの!? マジで最悪だ! 先輩すぐ出よう!」

 私の胸が、さっきからざわめいてるのもわかる。
 これがなんなのか知ってる。
 知ってるよ……。

  その言葉が魔法の合言葉みたいに、私の指先まで意識を走らせた。
 青柳くんの手が、私の手を掴んでる。
 ダメ! ダメ! ダメ!
 お願い、今外に出ないで!!

「先輩、今俺の顔みないで。やっぱ今は……ムリ」
「……うん」

 よかった。
 私も今はムリ。

「はぁ、俺のバカ」

 小さく呟いた青柳くんが、いつもと違って冷静さを失ってる。
 でも今の私には言葉を返す力はなくて、彼の横顔をみないように、繋がれた手をただひたすらみつめながら心臓の音の言い訳を考えていた。

 お化け屋敷のせいだ……。
 走ったせいだ……。
 だから……錯覚だよ。間違いだよ。
 
 

 
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