君を好きになるって、はじめからわかってた。

「あれ? 先生っていないんですか?」

 彼が困ったように言いながら、壁に掛けてある時計をチラリと確認する。

 体操着の色からして1年生だ。
 サッカーしてたグループかな。
 背も高くて、人懐っこい感じ。
 多分こんなコがイケメンっていうんだろな。
 その証拠に、結菜が私に耳打ちする。

「バスケ部のモテモテくんだ」

 岩泉にしか興味がない結菜がそんな風に言うのも珍しい。
 やっぱり、それくらい彼が人気者ってことなんだろうな。

「先生なら昼休み終わるまで戻ってこないと思うけど、消毒ぐらいならしてあげる」

 仁王立ちの私は彼の膝を指差して、持っていたピンセットをカチカチ鳴らす。

「いや、いいです」

 彼が、少しぎこちない返事をした。

「そう。なら自分でどうぞ」

 私は結菜から椅子を取り上げ彼に提供する。

「ナイスタイミング」

 結菜が小声で言うと、逃げるように保健室を出ていった。

「また、結菜は……もう」

 まだ説教を言い足りなかった私は、閉まったドアに一言ぶつけ、後輩とはいえ男子生徒と2人ってことに気がつき対応に悩んだ。

 悩んで出た答えは『弟』。
 そういうカテゴリになるんだと思ったら、少し気も安らいだ。
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