君を好きになるって、はじめからわかってた。

 そこには床に座ったまま、顔を両腕に埋めて眠っている青柳くんだった。

 どうしよう。
 起こさないように戻らないと。

 私は静かに教室へ向かおうとした。
 でもその考えとは別に、私の身体は自然と彼の前にしゃがんでいて静かに眺めていた。

 青柳くんの髪って細くてふわふわしてて、よくみるとちょっとクセっ毛なんだね。
 なんか可愛いくて、気持ちよさそう。

 そう思った時には、勝手に右手が青柳くんの頭に伸びていた。
 その瞬間、伸びたはずの私の右手ががっしりと掴まれた。

「それ以上先輩から近づくなら、俺我慢しないよ?」

 真っ直ぐ私の目をみつめる青柳くんから、目を反らせないまま私は……。
 彼がゆっくり私の掴んだ腕を下ろしながら、静かに顔を近づける。
 私が瞼を閉じると……あれ?

「やっぱ今はダメだ。先輩が俺のこと好きって言うまで何もできない」

 私は一気に自分が恥ずかしくなった。

 私何やってんの!?
 これじゃ私、青柳くんのこと好きって……。

 私はハッとした。

 好き?
 うそ……。

「先輩?」

 えっ?

 私の顔を覗くようにして青柳くんがニヤリと笑う。

「もしかして、俺のこと好きになってくれた?」
「なっ! そんなわけないでしょ!」

 私は立ち上がった。
 立ち上がったはずなんだけど、あれ?  身体がなんだかおかしい、頭がくらくらするし……。
 意識が一瞬にして遠くなった。


 目が覚めたら、私はなぜか青柳くんの膝の上で眠っていて、彼は壁に頭をもたれながら腕組みをしたまま眠っている。
 
 そっか、私立ちくらみしちゃったんだ。
 あんまり寝てなかったしね。

 ゆっくり上半身を起こすと、彼のブレザーが私の膝に落ちた。

 私にかけてくれてた?

 青柳くんのブレザーを両手で持ち上げると、ふわりと彼の香りがして、あの遊園地で彼の両腕に包まれた情景が私の五感をくすぐった。

 ほらまただ……。
 この胸の傷み。
 間違いなんかじゃない。
 あの時、あのお化け屋敷を出てから背中に回した手……隠してしまったのは私の気持ちだった。

 好き。
 青柳くんが好きだ。
 でもどうしたらいい?
 また信じれなくて傷つけたら?


 青柳くんが眠っているのを確認すると、ブレザーを彼の膝上にそっと掛けて教室へ向かった。
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