再会からそれは始まった。
俺は、久しぶりに上階の会員制ラウンジへ足を運んだ。

すっかり、ここもご無沙汰していた。

このビルの最上階にあるラウンジの夜景は、美しい。
仕事で行き詰ったり、何か大きな決断をしなければならない時、考え事がある時はここへよく一人で来ていた。

まあ、以前は、デートで使ったりもしたりしたけれど。
花と出会ってから、そんな事もすっかり飛んでいた。
しかし、俺はどんだけ禁欲生活をしているんだ。
ため息をつく。

「お久しぶりですね。」
いつものバーボンを作ってカウンターに置く。
ここのオーナーのバーテンダーが笑顔で言う。髭をはやしたダンディな男だ。

「ん。なかなか忙しくてね。」
俺は珍しく彼から葉巻を一本買い、久しぶりに吸ってみる。

「いろいろご苦労があるんじゃないですか?」

「まあ、ね。」

マスターは、俺がどういう状況の時にここへやってくるのかわかっていて、接してくれる。
他愛のない世間話から最近のビジネスの話、俺の好きなアメフトのスーパーボウルの試合結果まで、本当に話題が豊富な人なんだ。
彼と話していて、気分転換になる。
彼の作るカクテルも一番だが、こういう接客業としてのプロ意識も最高峰であることは間違いない。

二杯目を頼んだところで、アメリカのサラからメッセージが入っているのに気が付く。

「決着は、ついた?」

俺はため息をつく。
つかねえよ。まったく。

二杯目のバーボンをそっとカウンターに差し出してマスターが微笑む。
「どうしたんですか? そんなにため息ばっかりついて。」

「俺、そんなにため息をついてたかな。」

「ええ。なんだか珍しい。」
と微笑む。

「・・・・・・。」
そうだな、いつだって俺の脳にあいつは侵入してきやがる。

「仕事か、女か。」

「え?」

「今回は、女の方なんじゃないですか?」
と彼はニヤッと笑う。

俺は、苦笑するしかなかった。
参ったな。本当にこの人は、カウンター越しに立っていて、なんでもお見通しなんだな。

「南さんをそんなに悩ませる女性に興味ありますね。今度、連れてきてくださいよ。」

俺は再び苦笑する。ここに、あんなの連れて来れないだろ。
調子に乗って泥酔でもされたらたまったもんじゃない。
「・・・・・・・。」

やっぱり帰ろうか。
ビルの最上階で東京の夜景を見ていたら、やっぱり花の笑顔が恋しくなる。


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