再会からそれは始まった。

 金沢 SIDE

あんなふうに、ボスが深々と頭を下げているところを初めてみた。
松山さんがそっとささやくように教えてくれた。 
「K省の大臣とK団連の会長よ。」

花さんも黙って遠くのボスを見つめていた。
さっき、花さんが言っていた悩み。 
「彼とは世界が違いすぎる・・・。」というのも、わかる気がする。

「ものすごい憂鬱な会食だったでしょうね。今日は。」
松山さんは、そう言う。

それでも、あの人は恰好いいよな。
あのお辞儀があってこその、今の僕たちの仕事がある。
あんな人にかなうわけがないと思った。

僕と松山さんは、タクシーをつかまえて一緒に乗る。
邪魔者は消えまーす!おやすみなさーい!と、ビルの中に戻る二人の後姿に向かってふざけて言いながら乗り込んだけど、シートに身を沈めたとたん、僕たちはどんよりとした気分になってしまう。

「松山さん、おうちどこです?それとも二軒目行きます?明日土曜日だし。」

松山さんは突然泣き出した。
ええええ!?
こ、困ったな。
僕も泣きたいっすけど。
ずっと我慢していたんだな。松山さんの気持ちを考えるとなんだか切なくなる。
ずっとその気持ちを抑えて何年も長くボスに仕えていたんだ。無理もない。

「ゴメン。じゃあ、二軒目つきあってよ。」
グスンと鼻をすすり、マスカラの部分を丁寧にハンカチで抑える。

「もちろんですよ!ガンガン飲みましょう!失恋した者同士!」

「あなたと一緒にしないでよー・・・。もー・・・。」
そう言って、松山さんは再びぽろぽろと泣き出す。
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