再会からそれは始まった。

なんで俺は、よりにもよって図書委員のくじを引き当ててしまったんだろう。
彼女が、本が好きで毎回図書委員に立候補しているのは知っていた。

だからこそ、避けたかったのに。
それなら、学級委員とか面倒でもそっちに立候補していればよかった。

案の定、彼女は俺にいろいろと話しかけてきてくれるが、俺がまともに返事もしないので、だんだんと表情はこわばり、彼女の中で俺に対しての苦手意識が出てくるのが手に取るようにわかった。

まあ、それでいい。
最初から嫌われた方が気楽だし。

俺は、女が苦手だ。
仕方がないんだ。 母親は俺が生まれてまもなく家を出て行った。
ずっと親父と男四兄弟という男ばかりの環境で育ってきた。
上二人の兄は、独立してもう家にはいないが、今は大学生の兄と高校生の俺と親父の三人暮らし。 
俺の人生の中で、女と会話することなんて数えるくらいしかなかったんじゃないかって思う。

だから、とにかく女に対してどういう対応をしていいのかさっぱりわからないんだ。

そして、特に彼女に対して。
よくわからないが、気になるんだ。彼女が。

この高校に入ってすぐ、出会ったのはやっぱり図書室だった。
彼女は多分もう覚えていないだろうけど、ある新刊の本の予約をしようと思って受付に行ったら、ちょっとの差で彼女に先を越されたのだ。

彼女は、俺の申請カードをちらっと見て

「あはは、ごめーん。一番は私。」

て、ひらひらと同じ申請カードを降って、にかーっとして八重歯を見せた笑顔で俺を見上げた。

それから、学校で彼女を見かけるたびに気になってしまう。
隣のクラスらしい。
部活はテニス部に所属しているようだ。

俺たちがアメフトを練習しているグラウンドの高台にテニスのコートがあった。
練習が終わるとその高台から、グラウンドの方にテニス部の奴らが降りてきて横を通る。
彼女の無駄に細く長い脚がスコートから見える。

校舎の屋上から、彼女が小柄な体で軽快にコートの中で球を打っているのを見れることもある。
その姿は、昔見たディズニーのアニメのバンビにそっくりだった。
ショートヘアでボーイッシュな雰囲気を持つ彼女は、男にはモテなかったが、女にも男にも友達として人気のあるタイプだった。

そう、俺にとっては彼女はとてもまぶしいくらいの存在。
おそらく両親からたくさんの愛情を注がれて、なんの苦労も知らず真っ直ぐに育てられるとあんな風に屈託のない人間になるのだろう。

ま、俺からしてみれば、最も遠い存在だ。
< 2 / 133 >

この作品をシェア

pagetop