再会からそれは始まった。
秘書 松山 side
「磯崎さんは、もうお帰りなの? 地下鉄かしら?」
「はい。松山さんは?」
「私もです。」
彼女は、少し考えてから
「私、今日はあの地下鉄の駅降りる手前の焼き鳥やさんに行こうと思ってたんですけど、松山さんも行きません?」
「え!」
私は、いきなりのお誘いにびっくりする。
「いっつもいい匂いしてるし、おじさんたちがいっぱいだし気になってたんですよね。」
彼女は何の気なしにそんな事を言う。
私が呆れて彼女の顔をまじまじと見る。スーツにも匂いがついてしまうし、私が絶対に選ばないような赤ちょうちんがぶら下がっているあのお店。
「あ、無理ならいいですよ。急でしたね。」
とあははと笑う。
「そういうところに、一人で行くわけ?」
「全然行きますよ。 一人居酒屋はしょっちゅう。忙しいと自炊もしなくなっちゃって。ダメ人間です。」
とまたあははは。 どこまでも飾りっ気のない子。
「……………」
果てしなく私とも人種の違う彼女。
しばらく並んで歩いて、地下鉄のエントランスに近づくと確かに焼き鳥のタレが焦げる良い匂いがしてきた。
「じゃ、松山さん。私はこれで。」
彼女は、本当に一人でその店の暖簾をくぐる。
「ちょっと待って。やっぱり私も行くわ。」
このスーツ、おろし立てだけど、ええい!仕方ない。