再会からそれは始まった。
秘書 松山SIDE
磯崎花に、質問すればするほど意外な答えが返ってきて驚くばかり。
あの人が女嫌いって、今の生活態度を考えたらありえない。
私の知っている限り、あの男は今3人の女性と同時にお付き合いしている。
まあ、あんなハイスペックな男だとモテてモテてしょうがないんだけれども、よくあんな忙しい合間にあちこちの女を渡り合えるわと思うくらい。
でも、彼の中で絶対的なルールがある。
仕事関係、会社の利益に少しでも関係するような女とは寝ない。
よって、私も可能性はゼロ。
誰にも言えないけれど、私は彼の仕事以外のプライベートのスケジュールまで任されている。だから、いつどこで食事をして、はたまたどこのホテルに宿泊し、次の彼女の好みのブランドまで自然と把握してしまう。
だいたい別れは、先方が結婚を望んだりするようになるとやってくる。
それもいつものお決まりのパターン。
そうなるとアッサリと冷たくなる彼は、本当に女の敵だと思う。
一度だけ、それを言ってやったことがある。
「でも、付き合う前にちゃんと言ってるから。結婚はないからって。ルールを破った方が悪い。」
後ろから殴ってやりたくなった。
でも、その誰にでも優しいのも反則だと思います。と喉元まで出た言葉を飲み込んだことを思い出す。
しかし、磯崎花が言うように家事もなんでもこなせるならば、奥さんなんていなくても不便はないのかもしれない。
料理もプロ級だなんて、知らなかった。
彼の私生活については、謎が多い。
あのビルの52階に住居があるとは聞いている。あのフロアは、他にB.C.INCのアメリカ本社の経営者が買占め、あそこに通る表のエレベーターは無いらしい。
お部屋の掃除やクリーニングなんかは、家事代行が入ってもおかしくないようなセレブな住居だけど、今はまだ一部工事中のビル。
彼はあんなに忙しいのに、あそこで、全部自分で家事をこなしているのかしら?
体育着のゼッケンが綺麗に縫えるなら、Yシャツのボタンがとれたって自分でつけられる。
あの南さんがYシャツのボタンを縫っているところを想像しただけで、ますます好意を持たずにはいられないじゃない。
私は、ため息をつく。