再会からそれは始まった。
移動中の車の中で、花からの電話を受け取る。

隣にいた秘書の松山は、聞き耳をたてていたにちがいない。

花の名前を出した時、ピクっと一瞬動いた気がする。

まあいいか。兎にも角にもこれで、あいつの番号はわかったわけだ。

「磯崎 花」と打って、着信の番号を登録する。

会いたい。
そう思っているのは俺だけか。
俺は、静かにため息をつく。


車の外の景色を眺めながら、高校のときに、花に初めて彼氏ができた時のことを思い出す。
同じテニス部の先輩だったな。高2の秋。夏休み明けだ。

恋をして、少しずつ、花に女らしさが出てくるのを目の前にして、俺はますます目をそらす事しかできなかった。
その先輩とやらは、受験生だというのに、花との交際にうつつを抜かし、結局大学受験に失敗した。
その結果は花のせいだと言い、二人はそれで別れたといううわさがまことしやかに流れる。

そんな男に惚れていた花のことも軽蔑したし、あまりにもくだらなすぎて、本人たちもそしてそれを楽しそうに噂話をする奴らもなにもかもに嫌悪感を抱いた。

でも、本当は、泣いている花を見て、俺はその男が羨ましかった。 
そいつのことを考えて、悩み、花が涙を流していることに嫉妬した。
俺は、花を泣かす事さえもできない。 この後も、花の記憶にさえもきっと残らない。

そう思ったのを今でも覚えている。





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