再会からそれは始まった。


 秘書 松山 side


「正直、わかりません。」
磯崎花は肩をすくめて、そう言う。

「昔からお友達になりたいなって興味はありましたよ。
だから、今、縁あって出会えて話ができて嬉しいです。
ま、だからって、これからお友達付き合いできるのかっていうのは疑問ですけど。
雲の上の人になっちゃったし、会っていたときは確かに現実だったけど、今思うとあんな高台にある高級な住まいとかを思い出すと、私は夢を見てたのかなあなんて思っちゃいますよ。幻だったんじゃないかって。」
あはははと笑って抹茶ラテのストローをくるくるかき回す。

私は、なんとなく胸騒ぎがする。
もしかしたら、彼女だけがあの南さんの高い壁を軽々と乗り越えることができるのかもしれない。


「じゃあ、えっと松山さんは? 南一徹のこと好きでしょう?」
とストローをくわえて、上目遣いでいたずらっぽく笑って言う。
そのにくたらしい顔の頬っぺたをつねってやりたい衝動に駆られる。

「仕事の上司としてはね。ものすごく尊敬しているわ。
ここだけの話、私は、彼のプライベートのスケジュールまで任されちゃっているの。
彼のその行動をずっと見てきているのよ。彼に期待する女がバカだと思わない?」
最後の一言は、自分に言い聞かせるようにしていたのかも。

「はあ。」
ぽかんとした顔で、私を見る磯崎花。
「そんなに遊び人なんですか?奴は。」
信じられないというように首を横にふる。


「あなたが、初めてね。私の管理外で南さんにコンタクトとれるのは。
ある意味すごいんじゃない?そのあなたの言う男と女の友情が南さんの中で可能性があるんだとしたら。」
私にも、それはわからない。 
男の友達だって、今の彼にいるのかどうかも怪しい。
ここまでの地位に若くして登りつめてしまうと、ある意味彼の周りの男たちは敵ばかりという事もわかっている。
昔の男友達だって、きっと今の自分と比べて卑下し、遠のいていくのかもしれない。
嫉妬や羨望もたくさん受けるかもしれない。

「私は、南くんと松山さんはとてもお似合いだと思います。」
嬉しい事言ってくれるじゃない。
でも、私はそのまま表情を崩さずに言う。

「ねえ、やっぱりその服、預かるわ。 私から返す。」




 
 
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