再会からそれは始まった。
あれから結局一回も南一徹とは顔を合わせずに、オープンの日が来てしまった。
ありがたく下っ端の私もお呼ばれして、新崎事務所の参加メンバー全員で、B.C. Square Tokyo のグランドオープンパーティーに出かける。
エントランスの前でこのビルを見上げると、ほとんどのフロアの灯りがついて、息づいているように感じる。
「花さーん」
金沢君が手を振ってこっちに来る。
「新崎デザイン事務所のみなさまようこそ。
今日は楽しんでください。 本当に御社のみなさんにはお世話になりましたから。」
金沢君は、なんだかとっても嬉しそうだ。
南くんは、どこにいるんだろう? エントランスをくまなく見渡して探すけど、見当たらない。
乾杯の音頭や会がスタートしても、彼は現れなかった。
その代わり、そこのパーティーに参加していた人たちが彼の人物像や、憧れ、いろんな噂が耳に入ってくる。
「地下の駐車場には、彼の高級車がズラッと並んでいるんだって。」
「あの謎の上階にハーレムをつくっているらしいぞ。」
「マジか?! 金持ちでモテる男は違うな。」
(そんな風ではなかったけど)
「別邸も国内に幾つかあって軽井沢や河口湖からヘリコプターで出勤してるって聞いたぜ」
「はあああ!庶民には考えられない生活だな。」
(静岡にヘリで行ったというのは松山さんから聞いた事があるぞ)
「向こうでもすっごいもてるみたいよ。」
「アメリカに有名な女優の隠し子がいるらしいわ。」
(えええ?!そうなの!?)
「月に旅行できるチケットを既に予約している大金持ちの1人らしいぞ。」
「いくらすんだよ。そんなの!」
もう本当にこうなると、彼は実在する人物なんだろうか?
高校生の頃の南一徹の面影はそのままだけど、こうやってうわさで聞く全くかけ離れたあの人の人物像は、やっぱり実は幻なんじゃないかと思ってしまう。