再会からそれは始まった。
メールチェックと、トレーに載った書類を確認し終わって、ビルの外を眺める。
東京の梅雨明けはまだもうちょっと先になるというニュースの通り、今にも雨が降りだしそうな曇り空が、街全体を覆っている。
 
この時期の日本はあまり好きではない。
俺は、高校を卒業してすぐアメリカの大学でMBAを取るべく、留学をした。
アメフトを続けたかったのもあるし、アメリカの大学に行くのは俺の夢でもあった。
大学のあったカルフォルニアは、年中陽気な気候で、それはそれで日本の四季が恋しくなることもあった。

どうして、俺がこんなふうにのし上がったのか、、、様々な取材を受けてきたが、本当に運が良かっただけだ。
ひとつは、母親のいない家庭で俺が育ってきたことは何気にとても役に立った。
アメリカへ身一つで行っても、俺には一人で自活する自信だけはあった。
インターシップで、B.C.INCのアメリカ本社で働くことになり、たまたまそこの社長にかわいがられただけなのだ。
普通に、俺がしてきたこと。 母親代わりに自分の家庭でしていたことが、仕事では細かい気遣いや器用さにつながることもその社長が教えてくれた。
苦手な女の事も、社長のスティーヴンはおもしろがった。 
夜な夜な俺を遊びに連れ出し、克服させられたようなものだ。

その会社の日本法人をつくるにあたって、あれよあれよと卒業と同時に俺に任せてくれるにいたったのだ。
アメリカではこんなことは当たり前になってきているが、日本では受け入れがたい状況で、こっちに来てからは羨望と嫉妬の渦巻くなかで、なんとかやってきた感じだ。
俺がこっちに着任してからは、こんな若いボスの下ではやっていられないと、離れていった社員も相当数いる。
俺を引きずり下ろしたいと思っている人間は五万といるだろう。

まあ、無理もないか。



忙殺される日々。
でも、ふと立ち止まると、この急展開と大きなプレッシャーに、この俺だって押しつぶされるような恐怖を感じることもある。

そんな時、このビルの社長室から東京の街を見下ろして深呼吸をする。
何も考えないで仲間たちとボールを追いかけていた高校生の頃を懐かしく思ったりもする。







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