再会からそれは始まった。
最後の夜は、スティーヴンをお気に入りの寿司屋に誘う。
じっくりスティーヴンと二人で話をしたいからと、サラの面倒は松山にお願いすることにした。
昨日のことといい、松山には、本当に頭があがらない。
本当なら、早く帰りたいだろうに、いやな顔もしない。
「では、原宿や表参道でショッピングのご案内をしてから、彼女が好きそうなお店をいくつか選んでおくので、食事はそこで。帰りはあまり遅くならないようにしますね。十一時ごろ。」
完璧だ。
寿司屋の個室で、美味い肴で酒をかわしながら、スティーヴンとこの先のビジネスの話をする。
アメリカ行きは、やはり俺にとっては魅力だ。
でも・・・。
《単刀直入に聞くが、それでサラとの話は考えてくれたのか?》
《彼女がそれをのぞんでると思っているんですか?》
《もちろん。》
ビジネス眼はあっても、娘のことはなんもわかっちゃあいないんじゃないのか?
人生初の手術をして、いろいろ心配になるのはわからなくもないが。
俺は深呼吸をして、自分の考えをゆっくりとスティーヴンに伝える。
昨日、彼女が社長室にやってきたことも打ち明ける。
そして、サラときちんと話してほしい。これからは、彼女の意見や話を聞いてやって欲しいと。
スティーヴンは、少し落胆した面持ちでため息をつく。
《おまえの言っていることはわかるよ。
でもな、俺は、確信したんだ。入院して療養中にお前にアメリカに来てもらって、後継者もサラの事もお前しかいないと。
他の奴らは信用ならん。
いいか、もしお前がB.C.C.INCのトップになりたいなら、サラとの結婚は最低条件だ。》
俺は、苦笑する。いくらなんでも飛躍し過ぎだ。そんな話。
《なんでですか?》
《全米、いや全世界のトップだぞ。もし、サラの事とは関係なしにお前を指名したとする。
白人たちがそれで納得すると思うか?しかも歴代最年少だ。》
俺は、うんざりした顔でスティーブンを見る。
言いたいことはわからなくもない。
《・・・・・・・。》
《少しでもお前がやりやすくできる環境を作ろうとだな・・・。》
《スティーヴン、やめよう。 言いたいことはわかるよ。
でも、思っているような絵図通りにはできないこともある。
人間の複雑な気持ちを無視して実行したってビジネスはうまく行かないって言ったのはあなたじゃないか。》
俺は少し声を荒げ、そう言う。
《あなたのいう通り、アメリカに行きましょう。
でも、まだ、俺があなたの後継者だなんて早すぎる。
あなたの下で、数年、いや十年?やってから考えても遅くない。》
《俺が突然ぽっくり死んだらどうする? 暗殺されたらどうする? 出張中に飛行機が落ちるかもしれない。》
《・・・・・・。》
俺はあきれて、スティーヴンを見て、それから笑う。
《大丈夫ですよ。あなたはまだまだ死にませんから。
それに、俺は、フェアなかたちで勝負がしたい。
人種がどうとか年齢がどうとかそういう事よりも、俺は自分の仕事のやり方で周りを納得させたい。》
スティーヴンは、俺の顔をまじまじと見て
《お前は、日本に戻ってだいぶ変わったな》
《そうですか?》
《ああ、いい意味でだよ。若すぎるとだいぶ周りには反対されたんだがな。
日本のトップにおまえを指名したのはやっぱり間違ってなかったな。》
スティーブンは優しい目で俺を見る。
ちょっと照れくさくなって、俺は日本酒をくっと煽る。