再会からそれは始まった。
秘書 松山SIDE

彼女は、とてもいい娘。
箱入り娘なのね。
偉大なるお父さんに完全に守られて、何不自由なく育てられ、欲しいものも厳しく言い聞かせられつつも全てを手にし、人を疑うこともなく純粋培養されてきたに違いない。
だから、父の言う結婚相手にも絶大な信頼を持ち、それで素直に従い、なんの疑問も持たないでいる。

退屈だわ。
正直、言っちゃ悪いけど、私が男だったら、このバックグラウンドと美貌に魅せられ飛びついたとしても、すぐに飽きたと思う。
この娘と一緒にいるよりは、あの磯崎花と一緒にだらだらとお酒を飲んでいた方が、何百倍も楽しい。

おそらく、南さんは、彼女との結婚をイエスとは言わない。
私は、断言できる。

今日、じっくりとそのことについて、スティーヴンと顔を突き合わせて説得をしているに違いない。
このサラという娘は、何か思うところや気が付いていることがあるのかしら?
それとも、南さんが断るなんて微塵にも思っていないのかしら?
もし、そうだとしたら、この真っ白な純粋な心に傷をつけちゃうわよね。

嬉しそうにはしゃいで、洋服やバッグを選んでいる彼女の姿を見て、私は、彼女より幸せなのかもしれないと思う。

一緒に食事をして他愛もない会話をしていたのだけれど、最後のデザートのプレートが運ばれてきて、サラは急にまじめな顔になって私に聞く。

《イッテツには、今お付き合いしている方はいるんですか?》

ええっと、3、4人はいるはずだけど、そういえば最近ご無沙汰なんじゃない?忙しすぎて。
まあそれは言えないし。。

《プライベートなことは、秘書の私でもよくわかりませんわ。》
とごまかしておく。

《あの酔っぱらいの子。ほら、あの後、あなたが彼女を家までタクシーでのせていったでしょう。》

《え?》

《あの子かと思った。》

磯崎花のこと?

《どうして、そう思うんですか?》

《なんか、イッテツすごく怒ってたから。ほら、あんまり他人の事で怒ったりしないでしょ?》

《彼女は、デザイナーですよ。偶然なんですが、南さんの高校の同級生です。》

《へええ。》
彼女は、少し微笑んでデザートのケーキにスッとフォークを入れる。

《どうかしましたか?》

《ううううん。あのね、松山さん、私イッテツにフラれちゃいました。抱いてってストレートにお願いしたのに。》
彼女は寂しそうに笑って、
《なので、今日はいっぱい飲んでいいですか?》

私は唖然として、どうやって彼女を励まして良いのか言葉に迷った。

《いいですよ。私も付き合います。でも、11時までです。お父様にそういわれていますから。》


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