冷徹副社長と甘やかし同棲生活

 そう決めた私は、からあげ以外のおかずを作って、空腹と戦いながら彼の帰りを待っていた。
 

――九時すぎになり、かちゃ、と扉の開く音が聞こえた。
 急いで駆け寄ると、椿さんが革靴を脱ごうとしている。


「おかえりなさい」

「ああ、ただいま」

「カバン、持ちますよ」

「悪いな」


 椿さんから会社用のカバンを受けとる。見た目より重い。きっと、カバンそのものが重いのだろう。

 椿さんはスーツを脱ぎ、「これもかけといてくれ」と渡した。スーツからは、すこしタバコの香りがした。会社では吸っているみたい。家では、書斎以外では吸わないみたいだけど、私に気を遣っているのだろうか。

 
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