冷徹副社長と甘やかし同棲生活
どうしてまずリビングに来てしまったのだろう。まず部屋に入って、心を静めればよかった。今からでもそうすればいいのに、足が動かない。
「そうか、お前は……俺のために泣いてくれているんだな?」
ふわっと、身体中に温もりが伝わる。いつも使っている柔軟剤の香りで、椿さんに抱きしめられているのだと気がつく。
「ありがとう」
頭を優しく撫でられて、胸がいっぱいになった。
椿さんを好きという気持ちがあふれて、涙に変わる。
「俺はどう思われたっていいんだ。だからもう、泣かないでくれ。涙がもったいないだろ?」
優しく、子供をあやすような話し方が、嬉しくて。逞しい胸板に顔をうずめて、背中に手を回した。
いまだけは、きつく抱きしめさせてください。椿さんの体温を、感じさせてください。
心の中で、そう何度も呟いていた。