冷徹副社長と甘やかし同棲生活
彼らはもういないというのに、しばらくは誰も話そうとしなかった。
副社長の厳しいお言葉に、マーケティング部全員が放心状態になっているのかもしれない。
「残業して、一生懸命作ったのに……」
十五分くらい経った頃、隣のグループの女子社員が悲しそうにつぶやいた。
ハンカチで目を抑えていて、鼻をすする音が聞こえてくる。
「あのグループ、報告資料作るために相当残業してたもんなあ。悔しかったんだろうね」
菅野さんは、女子社員に同情しているようだった。
私は何も答えられなかった。彼らみたいに仕事を任されたことがなく、同情できる立場にないと思ったからだ。
ただ、新入社員の私でも、副社長は厳しすぎるということはわかる。
もっと優しい言い方だってできるのに、どうして威圧的な態度をとるのだろう。
副社長への憧れが強かった分、彼が【鬼の副社長】であったという現実は、私の心に相当の衝撃を与えていた。