冷徹副社長と甘やかし同棲生活

「どうして葵衣に会いに行ったんだ?」

「会いに行ったというより、服を買いにいきました。買ってもらった部屋着が気に入っているので、夏服をって……」

「それだけか?」

「はい」

「……ならいい」


 きゅっと、椿さんの手に力が込められた。
 その瞬間、恋する気持ちが爆発しそうになる。

 どうして、そんなことを聞くの? どうして、ずっと私の手を握っているの?
 どうして、忙しいのにタクシーに乗って葵衣くんの店に来たの……?

 聞きたいことはたくさんあるのに、何も言えなかった。
 

 もしかしたら、私のことが気になって、会いに来てくれたのかもしれないなんて。
 自惚れという魔法が、解けてしまうことが怖かったから。


――結局、家に入るまで、二人の手は繋がれたままだった。



 





 
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