冷徹副社長と甘やかし同棲生活

 といいつつ、内心は嬉しかった。本当のことはわからないけれど、副社長が私を気遣ってくれていたのならうれしい。変装してまで来るほど、うちの味を愛してくれているということもだ。


「隆弘くんが会社で厳しいのも、皆のことを想ってるからかもしれないよ。……まあ、どちらにせよ、自分の目でしっかり確かめておいで。隆弘くんがどういう人間なのか。噂に惑わされずにね」


「うん、そうだね。ありがとう、母さん」


 母さんは私を愛おしそうに見つめながら、頭を撫でてくれた。
 母さんに触れられると不思議と落ち着く。

“噂に流されずに”という言葉が胸にすとんと落ちた。 

 私はまだ副社長のことを何も知らない。
 
 どうして鬼のように厳しいのか、なぜ昔お金に困っていたのか。
 どうして一年前から変装するようになったのか、何もわからないし、知りたい。
< 66 / 321 >

この作品をシェア

pagetop