Sの陥落、Mの発症
侵食されるのは
「中條課長」
「ん…」

誰かに呼ばれる声がした。
現実と夢の狭間で誰の声だか分からない。

「そんなに俺に起こして欲しい?」
「んー…」
「そうですか」

ギシリ、とベッドが傾き、目を閉じたまま感じていた光が消えたと思った瞬間。

「んんっ」

顎に手が触れたかと思うと唐突に唇を割いて熱い舌が侵入する。
そのまま息を奪うような口付けに驚きと苦しさで一気に覚醒した。

「は…っ、ん…」
「ようやく起きましたね」

目の前で、濡れた唇を親指で拭う佐野くんが笑って私を見ていた。

彼の姿を見た瞬間、昨夜何度も気を失うまで身体を重ねたことを思い出し、顔に熱が集まるのを感じてシーツに潜り込んだ。

ただ身体を重ねたわけじゃない。
散々に恥ずかしいことをされたり言わされたりしたことまでフラッシュバックして堪らなくなった。

「俺はもう行きます」
「え…」

よく見ると彼はすでに昨日のスーツに着替えていて、身支度が終わっているようだった。

「チェックアウトまであと1時間あるんで、シャワーでも浴びてください。清算も気にしなくていいので」
「そんな、それは悪いから…」
「じゃあ今すぐ出られる?…そのドロドロに汚れた身体で」
「…っ」

その目で見られるともう何も言えない。

どうしてそんな私を辱しめることばかり言うんだろう。

目を逸らすと彼はキャリーバッグを引いて扉へ向かった。

「なかなか楽しかったですね、課長」

私が何も返せないまま、彼はそう言い残して出ていった。

こんなに恥ずかしい思いをさせられて、どうしてこんなにドキドキしてるんだろう。

自分の身体をぎゅっと抱きしめる。
昨夜の記憶はあまりに生々しく鮮明で、思い出せばまた身体に熱が戻りそうで考えるのを止めた。

ベッドから出てシャワーを浴びに行く。

そこで鏡の前に立って自分の身体が視界に入り、息を飲んだ。

鎖骨や耳の後ろ、肩から腕の内側、バストのデコルテに確認するのを躊躇してしてしまうほど際どい内腿まで紅い跡が散らされていた。

どこも隠そうと思えば髪や服装でギリギリ隠れるかどうかという位置。

これが彼に支配された証なんだ。

なぜかそう思った瞬間、身体をぞくぞくとした感覚が襲った。

「私の身体、どうなったの…」

彼と出会ってから今までの私では居られなくなっている気がして恐怖を感じる反面、昂りを覚えていることも事実だった。

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