Sの陥落、Mの発症
週明けの月曜日。
入社して7年。これほどまでに会社に行きたくないと思えたことがあっただろうか。

どんな顔して佐野くんに会えばいいの。

そのことだけがホテルを出てからずっと頭をぐるぐるしていた。

部下と身体の関係を持ってしまった。
こんなこと、今までの自分なら絶対にあり得なかったのに。

職場恋愛、中には純粋に交際して結婚したカップルも何組か見てきたけれど、大体は不倫やら不特定多数と遊んでいる例が多かった。

別にそんな人たちを見下したことはないけれど、私は絶対にそんなことにはならないと思っていたのに。

まさか年下の部下とあんなことになるなんて。

客観的に考えればお互い独身だし、問題ないように思えるが課長の私が年下の部下と関係を持ったなんて他に知られたら格好のネタだ。

憂鬱な気分で出社すると、彼の机にはまだその姿がなかった。
課の予定が一覧になっている掲示を確認すると、佐野くんの予定は外回りから商談、と書かれていてほっとした。

これなら一日会わないかもしれない。

自分のスケジュールを開いて確認する。

現在は春のフェアを主に百貨店と直営店で行っており、その視察に数店舗を回るのが今日の予定だった。

豊かな輝きを意味する『Shine・Rich』は主に20代~40代のキャリアウーマンに向けた服飾を展開するアパレルメーカーだ。

この春のフェアでは都心の百貨店にて他メーカーと協力した規模の大きなイベントが行われており、午後にファッションショーも企画されている。
それは担当外の地区のイベントだったが、視察に回る順番を考え、立ち寄っていこうと決めた。

彼が居ないと分かったことで気合いを入れてデスクワークに取りかかった。


「各店舗回ってきます。急ぎなら連絡してください」

課に残るメンバーにそう伝えて席を立つ。
時間を見ると12時を少し回ったところだった。

軽く何か食べてからイベントを覗けばちょうど良さそうだ。

そのまま営業部のフロアを出てエレベーターホールへ向かった。

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