Sの陥落、Mの発症
高菱屋百貨店は都内でも有数の百貨店であり、百貨店業界がこぞって伸ばそうとしている若年層の取り込みに成功している稀な例だった。
それは当然うちにも大きな影響があり、高菱の店舗の売り上げを見れば一目瞭然だ。
そんな高菱がイベントとして打ち出した複数メーカーのファッションショーはメディアにもプレスリリースされており、注目度の高いイベントだった。
「ちょうどいい時間ね」
「あぁ。けっこう人も入ってるな」
催事ホールをファッションショー用に飾り立ててあるホールは、すでにそこそこの集客を見せていた。
しばらくするとBGMが流れ始め、イベントがスタートする。
MCの女性が高い声で喋り始め、会場はにわかに騒がしくなった。
プロのモデルが目の前でウォーキングをするのは見応えがあり、自分の会社の商品が美しく着こなされている様を見るのは純粋にいい気分だった。
「6月のコレクションけっこういいな」
「樫岡くんも?私もあのブラックアシンメトリーのスカート気に入っているの」
それはアシンメトリーにカットされた黒のレースが重なりあったようなデザインで、一見ただのロングスカートなのに、左サイドの膝上から下までの部分がちょうどレース一枚になっていて、セクシーな印象のスカートだった。
「ああ、中條なら絶対似合うな」
「ほんと?買おうか迷ってるんだけど、サイドの透け感が私にはどうかなって…」
「あれ何がいいかってさ、そのチャイナドレス的なチラリズムだろ」
「…なんか樫岡くんにそう言われると賛成したくない」
「ひどいな。俺に一番に着て見せてくれるならプレゼントしてもいいくらいなのに」
また冗談言って、と返そうとしたとき、思いもよらない声が割り込んだ。
「あれ、中條課長?」
一瞬で背筋に悪寒が走る。
振り返らなくてもわかった。
間違いなく佐野くんの声だ。
それは当然うちにも大きな影響があり、高菱の店舗の売り上げを見れば一目瞭然だ。
そんな高菱がイベントとして打ち出した複数メーカーのファッションショーはメディアにもプレスリリースされており、注目度の高いイベントだった。
「ちょうどいい時間ね」
「あぁ。けっこう人も入ってるな」
催事ホールをファッションショー用に飾り立ててあるホールは、すでにそこそこの集客を見せていた。
しばらくするとBGMが流れ始め、イベントがスタートする。
MCの女性が高い声で喋り始め、会場はにわかに騒がしくなった。
プロのモデルが目の前でウォーキングをするのは見応えがあり、自分の会社の商品が美しく着こなされている様を見るのは純粋にいい気分だった。
「6月のコレクションけっこういいな」
「樫岡くんも?私もあのブラックアシンメトリーのスカート気に入っているの」
それはアシンメトリーにカットされた黒のレースが重なりあったようなデザインで、一見ただのロングスカートなのに、左サイドの膝上から下までの部分がちょうどレース一枚になっていて、セクシーな印象のスカートだった。
「ああ、中條なら絶対似合うな」
「ほんと?買おうか迷ってるんだけど、サイドの透け感が私にはどうかなって…」
「あれ何がいいかってさ、そのチャイナドレス的なチラリズムだろ」
「…なんか樫岡くんにそう言われると賛成したくない」
「ひどいな。俺に一番に着て見せてくれるならプレゼントしてもいいくらいなのに」
また冗談言って、と返そうとしたとき、思いもよらない声が割り込んだ。
「あれ、中條課長?」
一瞬で背筋に悪寒が走る。
振り返らなくてもわかった。
間違いなく佐野くんの声だ。