Sの陥落、Mの発症
思惑、そして
あれから、2週間近くが経った。
私の心は日に日に落ち着かなくなっていた。

その理由は一つ、佐野くんと接することがほとんどなくなったから。

定時を回り、佐野くんが荷物をまとめて席を立つ。

「お疲れさまです。課長、お先に失礼します」
「お疲れさま…」

仕事が終わればすぐに帰る。
普段は業務で必要なことしか会話しない。

これが普通の状態だって分かってるけど。
どうしてももどかしさを感じてしまう。

佐野くんが何を考えているのか分からない。
焦らされているのか、単に興味をなくしただけなのか。

自分の中のもて余す気持ちと、何を考えているのか分からない佐野くんの言動に振り回されていた。

「はぁ…」

机に視線を遣れば集中できずに処理できていない書類の束。
ため息をついて頭を切り替えようとコーヒーを買いに財布を持って休憩用ラウンジに向かった。

「佐野さん、明日の金曜空いてます？」

ラウンジに踏み出そうとした時、聞こえてきた名前に思わず足を止めた。

「空いてるけど？」

佐野くんの声。
話しているのは狭山くんの声のようだった。

「コンパ参加しませんか！急に一人来れなくなって」
「えーコンパか」

聞きたくないのに動けない。
心臓の音がいやに大きく聞こえる。

「え、佐野さん彼女いるって言ってましたっけ？」
「いや、いないけど」
「じゃあ行きましょうよ。可愛い子揃ってるみたいなんで！」
「うーん…なら行こうかな」

自分がただの遊びだって、分かってたはずなのに。
こんなことで傷つく権利なんてないのに。

どうしてこんなにしんどいんだろう。

一瞬で心が凍てついていくような気がする。
ずきずきと痛む胸を抑え、その場を足早に離れた。

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