Sの陥落、Mの発症
分からない。
佐野くんが何を考えて私に触れるのか。
知りたくない。
もう何も考えたくない。
傷付きたくない。
家に帰ってシャワーを浴び、食事をする気分にもなれずそのままベッドに入った。
いつの間に眠りについていたのか分からないまま、目覚ましの音で目を開けた。
全く寝た気がしなかった。
二日酔いのように身体が重い。
佐野くんに会いたくない。
その気持ちが身体を縛り付けている。
しかし、そんなことで仕事は待ってくれないし社会的な責任も軽くはない。
無理やり身体を起こして出社する。
今日さえ乗り切れば週末だ。
そう自分に言い聞かせてフロアに入った。
「課長おはようございます」
「おはよう」
ちらりと目を遣ると佐野くんの席に彼の姿はない。
ほっとため息をついて自分の席に向かった。
席に着くと同時に狭山くんが席を立って私の方に歩いてくる。
「課長、後からご報告があると思うんですが、朝一店舗から客注商品のことで少しトラブルがあったみたいで、佐野さん出てます」
「分かった」
トラブルについては気にならなくもないけど、報告が後回しってことはそこまで緊急ではないし一人で対処できるレベルということだ。
頭の片隅に止めつつ、どんどん溜まっていく目の前の書類を端から処理していく。
午前中に急ぎの仕事を終えると簡単に昼食を摂り、また机に戻る。
しばらくデスクワークをこなし、時間をみて月一回行われる定例会議、営業部、企画販売部、商品管理部、広報部との合同トップミーティングへ向かう。
それが終わる頃にはすでに日が傾いていた。
ぞろぞろと会議室から人が出るのを待ち、長い会議にため息をついて部屋を出ようと立ち上がった。
「中條」
「樫岡くん」
声をかけてきたのは樫岡くんだった。
お互い忙しいのか、会話をするのはあのファッションショーを見に行った日以来だった。
「お疲れ」
「お互いにね」
「なんか久しぶりだな」
「そうね」
「…中條、なんか疲れてる?」
疲れてるといえば確かにそうだ。
考えても仕方ないことをぐるぐると考えて自分で自分を追い込んでいる。
「…そうかも」
「珍しく素直だな。どう、今日夜行かないか」
「…うん、私も飲みたい気分かも」
「じゃあまた後で」
今夜の約束をすると樫岡くんは颯爽と立ち去った。
相変わらず物事がスマートだ。
デスクに戻っても入れ替わりだったのか佐野くんと顔を会わせることもなく、そのせいもあってか仕事は順調に捗った。
定時を報せるアナウンスが鳴る。
ぐっと伸びをして同じ姿勢で固まっていた身体を動かした。
これだけ仕事が進めばもう帰れるけど。
樫岡くんはどうだろうと思った時、スマートフォンにライン通知が届く。
開くと相手は樫岡くんだった。
『お疲れ。もうすぐ出られる。中條は?』
「こっちも大丈夫、と」
簡単に返事をして帰り支度をし、残業するメンバーに声をかけてフロアを出た。
佐野くんが何を考えて私に触れるのか。
知りたくない。
もう何も考えたくない。
傷付きたくない。
家に帰ってシャワーを浴び、食事をする気分にもなれずそのままベッドに入った。
いつの間に眠りについていたのか分からないまま、目覚ましの音で目を開けた。
全く寝た気がしなかった。
二日酔いのように身体が重い。
佐野くんに会いたくない。
その気持ちが身体を縛り付けている。
しかし、そんなことで仕事は待ってくれないし社会的な責任も軽くはない。
無理やり身体を起こして出社する。
今日さえ乗り切れば週末だ。
そう自分に言い聞かせてフロアに入った。
「課長おはようございます」
「おはよう」
ちらりと目を遣ると佐野くんの席に彼の姿はない。
ほっとため息をついて自分の席に向かった。
席に着くと同時に狭山くんが席を立って私の方に歩いてくる。
「課長、後からご報告があると思うんですが、朝一店舗から客注商品のことで少しトラブルがあったみたいで、佐野さん出てます」
「分かった」
トラブルについては気にならなくもないけど、報告が後回しってことはそこまで緊急ではないし一人で対処できるレベルということだ。
頭の片隅に止めつつ、どんどん溜まっていく目の前の書類を端から処理していく。
午前中に急ぎの仕事を終えると簡単に昼食を摂り、また机に戻る。
しばらくデスクワークをこなし、時間をみて月一回行われる定例会議、営業部、企画販売部、商品管理部、広報部との合同トップミーティングへ向かう。
それが終わる頃にはすでに日が傾いていた。
ぞろぞろと会議室から人が出るのを待ち、長い会議にため息をついて部屋を出ようと立ち上がった。
「中條」
「樫岡くん」
声をかけてきたのは樫岡くんだった。
お互い忙しいのか、会話をするのはあのファッションショーを見に行った日以来だった。
「お疲れ」
「お互いにね」
「なんか久しぶりだな」
「そうね」
「…中條、なんか疲れてる?」
疲れてるといえば確かにそうだ。
考えても仕方ないことをぐるぐると考えて自分で自分を追い込んでいる。
「…そうかも」
「珍しく素直だな。どう、今日夜行かないか」
「…うん、私も飲みたい気分かも」
「じゃあまた後で」
今夜の約束をすると樫岡くんは颯爽と立ち去った。
相変わらず物事がスマートだ。
デスクに戻っても入れ替わりだったのか佐野くんと顔を会わせることもなく、そのせいもあってか仕事は順調に捗った。
定時を報せるアナウンスが鳴る。
ぐっと伸びをして同じ姿勢で固まっていた身体を動かした。
これだけ仕事が進めばもう帰れるけど。
樫岡くんはどうだろうと思った時、スマートフォンにライン通知が届く。
開くと相手は樫岡くんだった。
『お疲れ。もうすぐ出られる。中條は?』
「こっちも大丈夫、と」
簡単に返事をして帰り支度をし、残業するメンバーに声をかけてフロアを出た。