Sの陥落、Mの発症
「佐野く…っ」

部屋に入ると振り向き様に抱き締められた。

「どうして思い通りにならない」
「え…」

いつになく真剣な表情の佐野くんに顔を覗き込まれ、瞬間的に顔に熱が集まった。

「そんな顔して誘うくせに…っ」
「あ…んっ」

後頭部を強引に引き寄せられ、性急な口づけに身体の芯に熱が灯る。

「ん…っはぁ…っま…って」

流されそうになる理性を押し留め、なんとか佐野くんの胸に手をついて話をしようと唇を離す。

「佐野くん…っ」
「樫岡部長とどこに行くつもりだったんですか」

腰に回された手に抱き締められた中で胸に手をついても至近距離は変わらない。
高鳴っていく鼓動に目線が合わせられず顔を逸らすも顎にかけられた手がそれを許さない。

「答えて」
「だ…って、佐野くんが…」
「俺がなに」
「…からかわれるのは、もう嫌なの…っ」
「からかう?」
「私ばっかり…っ佐野くんのこと…っ」

こんな年下の部下の言動に一喜一憂してしまう。
今も、こんなに近くで目を逸らせないようにされてるだけで、嫌なのに嬉しいと思ってしまう自分がいる。

「いつも考えてしまう…もっと、してほしいって…っこんなの、恥ずかしくて嫌なのに…っ」

そう訴えると佐野くんが何かを堪えるような表情になる。

「ならどうして樫岡部長といたんですか」
「だって、私のことはからかってただけなんでしょ…っ?最近、話しかけてもくれないし、…聞いたんだから」
「何を聞いたんですか」
「今日だって、合コンだったんでしょ…可愛い子がいるなら行くって言ってたの、聞いたんだから」
「…完全に裏目に出たのか」

佐野くんは眉間に皺を寄せてため息を吐き出した。
そして言いたくなさそうに渋々といった様子で口を開く。

「時間を開ければ、課長から誘ってくると思ってました。だからこっちから接触はしなかった。合コンは…あの時、ラウンジの前に居たの気づいてたんです。そう言えばすがってくるかなって」

すがってくるって。
どこまで私を振り回すつもりだったの。

言いたいことはあったけど、聞きたいのはそれじゃない。

「…じゃあ行ってないってこと?」
「…半ばやけで参加しましたけど」
「参加したんじゃない!」
「あなたも樫岡部長に寄りかかってどこに行くつもりだったんですか」
「それは……きゃっ」

目を泳がせた時、突然佐野くんの腕に抱き上げられて驚いている内にベッドにどさりと下ろされた。

「ちょ…っ」

寝そべるようになった私に覆い被さるように不機嫌な顔の佐野くんが近付いてくる。

< 25 / 39 >

この作品をシェア

pagetop