Sの陥落、Mの発症
「答えてください」
「…っ」
「言えないようなことするつもりだった?」
「な、ちが…っ」

実際違わないのかも知れないけど。
そもそも私と佐野くんの間には名前のある関係がないし、責められる理由なんてない。

「失恋したって思ったから…っ」
「思ったから?なんて言われたんですか」
「…慰めてくれるって…っんん」

言葉にした瞬間、佐野くんの唇が降ってくる。
熱い舌はさっきのキスよりも激しく、私の咥内を暴くように絡められた。

「は…っんぁ」
「中條課長があの男に抱かれるなんて想像するだけで今すぐ壊しそうだ…っ」

乱暴にネクタイを引き抜く姿にぞくぞくした痺れが背筋を走った。
考えられなくなっていく頭の中で、切羽詰まったような佐野くんの表情が見たこともないくらい必死で、胸に愛しさが競り上がってくる。

「好きに、して…」

のし掛かってくる佐野くんに手を伸ばし、自然と口をついて出た。

「煽ってんなよ…っ」

その瞬間首筋に噛みつくように唇が寄せられる。

「あぁ…っ」

熱い唇が乱暴に身体を辿っていく。
荒々しい手つきで服が脱がされ、素肌に佐野くんの手が這い回る。
すぐに身体に火が付けられ、呼吸が荒くなっていた。

「ぁん…っはぁ、んんっ」

乱暴にされていると思うのに全く嫌だと思えない。
それどころか余裕のない姿に求められているというだけで何をされてもいいと身体が悦んでいる。
はしたない欲望に浮かされているのも自覚していた。

それでも、彼が欲しい。

「あぁ…っ!!」

この間よりも激しく身体を揺さぶられる。
その手つきに優しさはなく、動物的な本能のままに求められていることに快感が増していく。
身体に感じる律動が激しくなるにつれてはしたない声が抑えようと思っても押し出されるように部屋に響く。

どうなってもいい。
好きにしてほしい。
もっと、もっと。

意識が朦朧としてくる間にももう何度目か分からないくらい求め合い、肌を重ねて熱を与え合う。

「んっ…は、好き…っ」
「は…っ」

汗ばんだ身体に腕を回し、しがみつくように抱き締めた。

満たされたい、求めて欲しい、全て奪って欲しい。
こんなどろどろの欲望の塊が、自分の中にあることを教えられた。

知りたくなかった。
でも、知ってしまったら、もう戻れない。

私にはあなたが必要。
あなたにも、私が必要だと思ってもいい?

あなたの激しさをどれだけでも受け止められるのも、私だけだから。

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