Sの陥落、Mの発症
耳元に囁かれると同時に腰に回った手がするりと下がり、後ろから太ももを撫で上げるようにスカートの中に右手が入った。

「だめ…っぁ」

ぞくりと身体が震えると追い討ちをかけるように中に入った指がストッキングと下着の上から敏感な場所を探り当てるように触れた。

「ぁ…っや、佐野くん…っだめ、人が来ちゃう…」

いきなりの強い刺激に腰が引けるように身動ぎして腕から逃れようとするのに左手に腰を支えられて離れられない。
抱き締められるような形のまま、右手の指先が情動を高めようと状況に似つかわしくない卑猥な動きで責め立てる。

「おねが…っだめ、やめてっぁ、ん、ん」
「何いい声出してるんですか。やめてほしい声に聞こえない」

左耳に濡れた囁きを入れられて脚ががくがくと震えだす。
逃れたいはずなのに佐野くんに掴まっていないと膝から崩れ落ちてしまいそうだった。

「はぁん…っ」

一際強く刺激されて漏れた声が無機質な空間に反響し、羞恥に顔に熱が集まる。

「エロい声…ここからなんか音がするんだけど。何の音?」
「や…っ」

指先を細かく動かされる度にびくりと身体が反応し、下腹部の熱が生理的な現象として聞くに耐えない水音を立てる。
声を堪えようとするのに息が荒くなっていく。

「は…っは、」
「気持ち良さそうですね」

首筋に触れ合う佐野くんの唇から熱い舌が耳の中に差し入れられ、くちゅりという音に足元から震えが走る。

もうだめ、こんなの…。

かろうじて残る理性が消え、指先の快楽を追いかけるように腰を動かすと急に佐野くんの指が離れていく。

「やらしいなぁ、こんなとこで俺の指まで湿らせて」

さっきまで触れられていた指を持ち上げて眺める動作に佐野くんを直視できなくて顔を肩に埋めた。

唐突に快楽の源を奪われて身体に熱が燻るのを感じる。
無意識に脚を擦り合わせるような動きに佐野くんがくすりと笑う。

「なに、足りないの?」
「っ…」

頬に触れた手が顔を肩から離し、キスの距離まで近付いて目線を絡ませる。
いつもの冷たい目にベッドの中の熱を見て恥ずかしいのに目が離せない。

「じゃあ中條課長、先に戻ってますね」
「あ…」

一瞬でにっこりと爽やかな笑顔になるとそのまま身体を離した佐野くんが振り向きもせず階下に降りていく。

「…意地悪、最低…っ」

決して本人には言えない文句を扉にぶつけ、一人はしたなく熱を持てあました身体を抱き締めた。

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