Sの陥落、Mの発症
乱された心と身体を落ち着かせてから手にした資料の存在を思い出し、階段を上って7階フロアの企画販売部に顔を出した。
階下に戻り、営業部に戻る前に表情が揺るがないようにもう一度深呼吸してから入る。
「狭山くん、さっきの買い回りの件、企画も反応良さそうだったから詳細詰めてくれる?」
「はい、ありがとうございます」
デスクワークをしていた狭山くんはパッと顔を明るくさせて頷いた。
隣の端の席の佐野くんがいないのを見て少しほっとする。
朝からよくもあんなことを、と恨み言の一つも言いたいけれどさっきの出来事に思考がフラッシュバックしそうで波立ちそうな感情を抑えた。
週明けの月曜日はいつもより雑務が多い。
確認書類が溜まったままのデスクを見て頭を仕事モードに切り替える。
結局今日は途中戻ってきた佐野くんと会話することもなく、デスクワークに追われて一日を終えた。
「んーっ」
ずっと同じ姿勢だったせいで固まった身体を伸びをして動かす。
すっかり陽は落ちて窓の外は夜の始まりを告げていた。
フロアを見渡すと人も疎らになっている。
そろそろ帰ろうかな、と立ち上がって準備をしながら課の掲示に目を遣る。
佐野くん、戻ってくるのかな。
昼間に出ていったきり、外回りで帰っていなかったが一応帰社の予定となっている。
一瞬迷ったがそのまま退社することにして、残っているメンバーに「お疲れさま」と声をかけて出ていった。
エレベーターでエントランスまで降りると同じビルに入っている違う会社員の人たちとすれ違う。
退社のピークは過ぎているからかエントランスにほとんど人は居なかった。
ビルを出てすぐ左手に歩きだそうとしたとき、視界の端に見知った顔が見えた。
「佐野くん…?」
中央分離帯のある大きな車道を挟んだ向かいの道路に歩く姿を見つける。
その隣には笑い合う女性の姿。
一瞬、身体が強張るように感じた。
薄暗い中でも見えた楽しそうに笑う彼の顔は私に向けられたことはなくて。
そのまま向こう側からこっちに渡ろうと横断歩道に立ち止まった二人に気付かれないよう足早にその場を後にする。
頭の中にさっきの佐野くんの笑顔が思い浮かんで胸がきりっと締め付けられたような痛みを感じた。
階下に戻り、営業部に戻る前に表情が揺るがないようにもう一度深呼吸してから入る。
「狭山くん、さっきの買い回りの件、企画も反応良さそうだったから詳細詰めてくれる?」
「はい、ありがとうございます」
デスクワークをしていた狭山くんはパッと顔を明るくさせて頷いた。
隣の端の席の佐野くんがいないのを見て少しほっとする。
朝からよくもあんなことを、と恨み言の一つも言いたいけれどさっきの出来事に思考がフラッシュバックしそうで波立ちそうな感情を抑えた。
週明けの月曜日はいつもより雑務が多い。
確認書類が溜まったままのデスクを見て頭を仕事モードに切り替える。
結局今日は途中戻ってきた佐野くんと会話することもなく、デスクワークに追われて一日を終えた。
「んーっ」
ずっと同じ姿勢だったせいで固まった身体を伸びをして動かす。
すっかり陽は落ちて窓の外は夜の始まりを告げていた。
フロアを見渡すと人も疎らになっている。
そろそろ帰ろうかな、と立ち上がって準備をしながら課の掲示に目を遣る。
佐野くん、戻ってくるのかな。
昼間に出ていったきり、外回りで帰っていなかったが一応帰社の予定となっている。
一瞬迷ったがそのまま退社することにして、残っているメンバーに「お疲れさま」と声をかけて出ていった。
エレベーターでエントランスまで降りると同じビルに入っている違う会社員の人たちとすれ違う。
退社のピークは過ぎているからかエントランスにほとんど人は居なかった。
ビルを出てすぐ左手に歩きだそうとしたとき、視界の端に見知った顔が見えた。
「佐野くん…?」
中央分離帯のある大きな車道を挟んだ向かいの道路に歩く姿を見つける。
その隣には笑い合う女性の姿。
一瞬、身体が強張るように感じた。
薄暗い中でも見えた楽しそうに笑う彼の顔は私に向けられたことはなくて。
そのまま向こう側からこっちに渡ろうと横断歩道に立ち止まった二人に気付かれないよう足早にその場を後にする。
頭の中にさっきの佐野くんの笑顔が思い浮かんで胸がきりっと締め付けられたような痛みを感じた。