Sの陥落、Mの発症
佐野くんの後ろを付いていき、彼が扉を開けるとそこは横に広いダイニングキッチンになっていた。
佐野くんは鞄を床に下ろすと左手のキッチンに向かった。
「座ってください」
「うん…」
男の人の部屋に来るのはいつぶりだろう。
入ってすぐ右手に見えた黒いソファに腰かける。
ソファの前に黒いテーブル。正面にテレビ。
シンプルな部屋はなんとなく佐野くんらしい。
座ってとは言われたものの周囲が気になってそわそわする。
佐野くんがここで暮らしているのかと思うと落ち着かなかった。
「ビールでいいですか」
「あ、うん。ありがと…」
缶ビールを二つ手にした佐野くんが近付いてきたかと思うとどさりと隣に腰を下ろした。
「どうぞ」
「ありがとう」
缶を受け取り、カシュッという炭酸の抜けるが連続して響いた。
「お疲れさまです」
「お疲れさま…」
なんだろうこの感じ。
とりあえず落ち着かない気持ちを誤魔化すように缶ビールに口づけた。
すぐ横、体温を感じるほど近くに佐野くんがいる。
変かもしれないけど、佐野くんがこんなに近くにいて、身体に触れてこないのは新鮮な気がする。
普通の部屋デートとかなら、こんな感じなんだろうか。
そっと佐野くんを伺うように見てみると佐野くんはじっと私を見つめていた。
「…っ」
「落ち着かない?」
低い声と視線に目が離せない。
甘い顔に陰りが見えて心臓が煩くなる。
カン、とテーブルにビールを置き、身体ごと私の方に向き直る佐野くんにどう反応すればいいか分からない。
「何考えてる?」
「え…?」
「迫ったら受け入れるくせに、好きなんて言う割に自分からは来ない」
「佐野、くん…」
真剣な目に身動きできずにいると息がかかるほど顔が近付いてくる。
「口、開いて」
「え…」
「この唇…自分で開けて」
すっと親指で唇に触れられるとぴくりと身体が震えるように反応した。
「ほら早く」
「……っ」
恥ずかしいのにずっと私を見つめたままの佐野くんは動かない。
きゅっと目を閉じて薄く唇を開く。
「目、開けて」
言われた通りにそっと目を開いた瞬間、唇が触れたかと思うとくちゅっと濡れた音と共に舌が口内へ滑り込んできた。
「んっ、ん」
「は…」
至近距離で目を合わせながら舌を絡め取られるように吸われ、一気に身体が熱くなった。
恥ずかしい。こんなの…!
息も逃さないというように歯列や口蓋を舐められ、熱い身体が溶けるように力が抜けていく。
耳の裏から後頭部を支えるように手が差し込まれ、ぐっと引き寄せられると一段と荒く口内を侵される。
飲み込みきれない唾液が口の端を伝っていくのが分かった。
佐野くんは鞄を床に下ろすと左手のキッチンに向かった。
「座ってください」
「うん…」
男の人の部屋に来るのはいつぶりだろう。
入ってすぐ右手に見えた黒いソファに腰かける。
ソファの前に黒いテーブル。正面にテレビ。
シンプルな部屋はなんとなく佐野くんらしい。
座ってとは言われたものの周囲が気になってそわそわする。
佐野くんがここで暮らしているのかと思うと落ち着かなかった。
「ビールでいいですか」
「あ、うん。ありがと…」
缶ビールを二つ手にした佐野くんが近付いてきたかと思うとどさりと隣に腰を下ろした。
「どうぞ」
「ありがとう」
缶を受け取り、カシュッという炭酸の抜けるが連続して響いた。
「お疲れさまです」
「お疲れさま…」
なんだろうこの感じ。
とりあえず落ち着かない気持ちを誤魔化すように缶ビールに口づけた。
すぐ横、体温を感じるほど近くに佐野くんがいる。
変かもしれないけど、佐野くんがこんなに近くにいて、身体に触れてこないのは新鮮な気がする。
普通の部屋デートとかなら、こんな感じなんだろうか。
そっと佐野くんを伺うように見てみると佐野くんはじっと私を見つめていた。
「…っ」
「落ち着かない?」
低い声と視線に目が離せない。
甘い顔に陰りが見えて心臓が煩くなる。
カン、とテーブルにビールを置き、身体ごと私の方に向き直る佐野くんにどう反応すればいいか分からない。
「何考えてる?」
「え…?」
「迫ったら受け入れるくせに、好きなんて言う割に自分からは来ない」
「佐野、くん…」
真剣な目に身動きできずにいると息がかかるほど顔が近付いてくる。
「口、開いて」
「え…」
「この唇…自分で開けて」
すっと親指で唇に触れられるとぴくりと身体が震えるように反応した。
「ほら早く」
「……っ」
恥ずかしいのにずっと私を見つめたままの佐野くんは動かない。
きゅっと目を閉じて薄く唇を開く。
「目、開けて」
言われた通りにそっと目を開いた瞬間、唇が触れたかと思うとくちゅっと濡れた音と共に舌が口内へ滑り込んできた。
「んっ、ん」
「は…」
至近距離で目を合わせながら舌を絡め取られるように吸われ、一気に身体が熱くなった。
恥ずかしい。こんなの…!
息も逃さないというように歯列や口蓋を舐められ、熱い身体が溶けるように力が抜けていく。
耳の裏から後頭部を支えるように手が差し込まれ、ぐっと引き寄せられると一段と荒く口内を侵される。
飲み込みきれない唾液が口の端を伝っていくのが分かった。