Sの陥落、Mの発症
ベッドに横たわりながら浅い呼吸を整える。
まだじんじんと行為の名残の残る身体を抱き締めるように深呼吸した。
「ん…」
額に触れられたかと思うと汗で張り付いた前髪を佐野くんの指が剥がして流すように撫でた。
左手で頭を支えるように横向きに寝そべる彼は隣の私を見下ろしながらも、どこかその甘い雰囲気に胸がきゅっと締め付けられる。
「佐野くん…」
「なに?」
「好き…」
「…知ってる」
「!」
その表情は好青年の仮面でも意地悪な笑みでもなくて。
見たことのない柔らかい笑みに心臓が大きく跳ねた。
何その顔…!
信じられないものをみるような私の顔に気付いたのか佐野くんはせっかくの珍しい笑顔を引っ込めた。
「何勝手に一人で考えてるんですか」
「え…」
「前も言ったけど。あなたが欲しいって」
「うん…」
肌の触れ合う距離で甘やかすように髪を弄ぶ彼に速くなる心臓は落ち着かなかった。
前も少し思ったけど、佐野くんのギャップが激しすぎて心臓がもたない…っ!
「聞いてる?」
少し不機嫌そうな声にくいっと顎を捕まれて強制的に目を合わせられる。
「き、聞いてる…っん」
ちゅ、と奪うように一瞬だけ唇が触れていく。
「誰にもやるつもりはない。この唇も羞恥に耐えてる顔も、感じやすい身体も」
「…っ」
「鳴かせて良いのは俺だけだ。文句は?」
不遜な顔で低く甘く囁く声に抗えるはずない。
「…ありません」
「良い子だね、奈々子」
「ッ!」
そんな急に名前で呼ぶなんて反則。
顔に熱が集まって何も言えない。
あんなに不安だったはずなのに、悪戯に髪をいじったりじっと見下ろしてくる佐野くんの仕草に一々ドキドキして浮かれそうで仕方ない。
「あの…」
「なに?」
「この間、遅めに会社に戻ってきたとき、一緒にいた女の子って、さっき外で待ってた子だよね」
「え?ああ…商品管理の。何、見てたの?」
バレた。
「嫉妬?」
声にからかいの色が混じる。
言い当てられた気まずさに視線を逸らした。
「そういうんじゃ…」
「この間はたまたま会っただけ。だいたい、樫岡部長とあれだけよく二人で飲みに行ってどの口がって感じですが」
「そ、それは…」
「外回りの帰りとか何度か見たし。二人で歩いていくところ」
そう言われると否定できない。
後ろめたさにふいと顔を反対に向けると視界が陰った。
「え…っあ」
気付くと佐野くんが覆い被さるようにのし掛かり、まだ素肌のままの脚をいやらしい手つきをした右手が滑っていく。
「あ、だめ…っ」
「余計なこと考えずに感じてろ」
耳元で濡れた声が囁くと身体が一気に溶ける気がした。
まだ敏感な身体には軽いタッチでも大袈裟に反応してしまう。
「んぁ…っ」
「だめって反応じゃないだろ」
頭上で艶やかに笑う彼はやっぱりその嗜虐的な表情が似合いすぎて、目が合うだけでこの先を予感して身体が震えた。
「自分が誰のものか疑う余地もないように再教育しないとな」
「あ、そんな…っあぁ…っ」
自分の中のわだかまりが溶けたと安心する間もなく、その支配的な目と容赦のない手つき、羞恥に追い上げられる言葉に翻弄され、眠りにつくのはまだまだ先のことになるのだった。
-fin-
まだじんじんと行為の名残の残る身体を抱き締めるように深呼吸した。
「ん…」
額に触れられたかと思うと汗で張り付いた前髪を佐野くんの指が剥がして流すように撫でた。
左手で頭を支えるように横向きに寝そべる彼は隣の私を見下ろしながらも、どこかその甘い雰囲気に胸がきゅっと締め付けられる。
「佐野くん…」
「なに?」
「好き…」
「…知ってる」
「!」
その表情は好青年の仮面でも意地悪な笑みでもなくて。
見たことのない柔らかい笑みに心臓が大きく跳ねた。
何その顔…!
信じられないものをみるような私の顔に気付いたのか佐野くんはせっかくの珍しい笑顔を引っ込めた。
「何勝手に一人で考えてるんですか」
「え…」
「前も言ったけど。あなたが欲しいって」
「うん…」
肌の触れ合う距離で甘やかすように髪を弄ぶ彼に速くなる心臓は落ち着かなかった。
前も少し思ったけど、佐野くんのギャップが激しすぎて心臓がもたない…っ!
「聞いてる?」
少し不機嫌そうな声にくいっと顎を捕まれて強制的に目を合わせられる。
「き、聞いてる…っん」
ちゅ、と奪うように一瞬だけ唇が触れていく。
「誰にもやるつもりはない。この唇も羞恥に耐えてる顔も、感じやすい身体も」
「…っ」
「鳴かせて良いのは俺だけだ。文句は?」
不遜な顔で低く甘く囁く声に抗えるはずない。
「…ありません」
「良い子だね、奈々子」
「ッ!」
そんな急に名前で呼ぶなんて反則。
顔に熱が集まって何も言えない。
あんなに不安だったはずなのに、悪戯に髪をいじったりじっと見下ろしてくる佐野くんの仕草に一々ドキドキして浮かれそうで仕方ない。
「あの…」
「なに?」
「この間、遅めに会社に戻ってきたとき、一緒にいた女の子って、さっき外で待ってた子だよね」
「え?ああ…商品管理の。何、見てたの?」
バレた。
「嫉妬?」
声にからかいの色が混じる。
言い当てられた気まずさに視線を逸らした。
「そういうんじゃ…」
「この間はたまたま会っただけ。だいたい、樫岡部長とあれだけよく二人で飲みに行ってどの口がって感じですが」
「そ、それは…」
「外回りの帰りとか何度か見たし。二人で歩いていくところ」
そう言われると否定できない。
後ろめたさにふいと顔を反対に向けると視界が陰った。
「え…っあ」
気付くと佐野くんが覆い被さるようにのし掛かり、まだ素肌のままの脚をいやらしい手つきをした右手が滑っていく。
「あ、だめ…っ」
「余計なこと考えずに感じてろ」
耳元で濡れた声が囁くと身体が一気に溶ける気がした。
まだ敏感な身体には軽いタッチでも大袈裟に反応してしまう。
「んぁ…っ」
「だめって反応じゃないだろ」
頭上で艶やかに笑う彼はやっぱりその嗜虐的な表情が似合いすぎて、目が合うだけでこの先を予感して身体が震えた。
「自分が誰のものか疑う余地もないように再教育しないとな」
「あ、そんな…っあぁ…っ」
自分の中のわだかまりが溶けたと安心する間もなく、その支配的な目と容赦のない手つき、羞恥に追い上げられる言葉に翻弄され、眠りにつくのはまだまだ先のことになるのだった。
-fin-