四つ葉のクローバーを贈られました
「ここは僕が東京の方で仕事がある時に使っている別邸です。本邸は京都の方にあるのですが、今日はここに泊まって、明日京都の方へ……佐倉さん、聞いてらっしゃいますか?」
「あっ!ごめんなさい!……その、これが別邸?」
「はい」
小此木さんは不思議そうに小首を傾げた。
白い塀が長く続き、門構えは高級料亭のソレと同等の趣を持っている。
お屋敷に入る前からちょっと足踏みしてしまうような敷居高い雰囲気がありありと伝わってきた。
そっか、これで別邸なんだ……。
本邸とやらを見るのがちょっと恐ろしいような、早く見てみたいような。
小此木さんはそんな私の心情など当然ながら露知らず、早く早くとばかりに私を門の向こう側へと招き入れた。
そこはイギリスの西洋庭園を見慣れた私にはとても懐かしく、これぞ日本と思えるような和の空間が広がっていた。
様々な種類の植物が丁寧に整えられ、見る者全てを和の心、和の趣に浸らせてくれる。
小さな橋がかけられた池には色鮮やかな鯉が放たれていた。
「咲夜様、お帰りなさいませ」
私が庭を見渡していると、玄関からロマンスグレーの髪と髭を持った初老の男性が出てきた。
「あぁ、垣内(かきうち)さん。ただいま戻りました。佐倉さん、こちら、この別邸の些事を取り仕切ってもらっている垣内さんです」
「初めまして。皇都大の西森先生の紹介で本日から小此木家で専属医を勤めさせていただきます、佐倉圭と申します」
「話はお聞きしております。垣内と申します。何か分からないことがあればいつでもおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます」
良かった。この人も優しそうな人だ。
とりあえず幸先の良いスタートを切れそうなことに、私は胸をなでおろした。