真実の愛に気づいたとき。
心理学に精通してない人が『心理学的には〜…』など言うはずがない。


ただの心理学オタクのキャバボーイとか?返答が来るまで様々なパターンを頭の中で並べる。


「大学で…心理学を専攻していただけだ。別に心理学者とかじゃない」


そう言いながら胸ポケットからタバコとライターを取り出し、遠慮なく火をつけようとする。草木に引火したら…!!と焦った私は慌ててそれを制した。


「ちょちょちょ!火事になったらどうするんですか!!」


ライターを持つ手を押さえると、松村さんは私を一瞥して舌打ちをする。


「…いちいちうるせーから友達できねぇんだよ」


押さえる私の手をパッと振り払った。


な、なんて失礼な!!



「こうやって注意する相手すらいないから、相談してるんじゃないですか」


「…それもそうだったな。友達居ない西田ひかりさん?」


「っ!!」


急にこんなところに連れて来たと思ったら、普段と変わらない言葉や悪態。一体何を考えているのだろうと疑問が次から次へと出て来る。



タバコの煙をふっと吐き出した松村さんはポツリと呟いた。


「そもそもお前は何に悩んでいる?友達ができないこと?それとも自分の生き方が正しいのかどうか?」


話の本質をつく。言われて私はしばらく考え込んでしまった。そして、出て来た答えをゆっくりと言葉にする。


「私は…良かれと思った生き方をしてきました。でも、私の生き方は周りには通用しないと言うか…周りと違うから違和感があるんです」


「自分が良いと思っているならいいんじゃね?周りは承認欲求を満たそうとしているだけだ」


「承認欲求…?」


聞きなれない言葉を繰り返すと、再び煙を吐き出した。夕暮れの空に昇っていく煙はやがて消えて見えなくなった。


「周りから認められたいと思う欲求だ。集団社会で生きていると当然のようにこの欲求が生まれる。認められたいから同調するし、他人を褒め煽てる。こうすることで上手く生きているんだよ」


認められたい…私は、今までそういう感情を持ったことはあるのだろうか。


人と関わることが少なかった私は認められたいと思うような相手もいなかった。


「じゃあひとつ質問。もし自分が優しくした相手に裏切られたらどう思う?」


「そりゃ…どうして?って思います」
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