真実の愛に気づいたとき。
せっかく気持ちが落ち着いていたのに、こうしてわかりやすく嫌味を言われると気分も落ちる。
その日終始イライラした私はあの場所に向かった。
こんな天気の悪い日でも、あの絶景を目にすることができるのか…おそらく難しい。
だけど、行くことに意味がある気がする。
未だにこのネオン街を通るのは気が引ける。たまに見知らぬおじさんに声を掛けられたりするが、それをあしらう術は身につけた。
もしこんなところにいると大学の人間に知られたら、噂も噂でなくなってしまいそうな気がする。"売春女"のレッテルを貼られた私に弁解の余地などない。
もちろんそんな気はないけれど。
少しずつ見えてくる木々。どうしてこんなにも気分が変わるのだろう。自然の香りと言うのだろうか、草のクセになるような香りが鼻孔をくすぐる。
そして目の前に広がる高原、真ん中にそびえ立つ大樹。
「…あれ?」
その幹に身を預けているシルエットが目に入る。こんなの…一人しかいない。
「…こんにちは」
そのシルエットに声を掛けると、ゆっくりと顔をこちらに向けた。
この人の顔を見ると、危険な香りがするのに何故か安心する。
「また何か悩みができたのか」
「松村さんこそ、何かあったからここにいるんじゃないですか?」
松村さんの横に腰を下ろす。やはり生憎の曇り空、あの時のような綺麗な空ではなかった。