真実の愛に気づいたとき。
そんなことを思いながら、真っ直ぐ前を見る松村さんの横顔を見つめた。


整えられた眉、キリッとした目つき、筋の通った鼻、形のいい薄めの唇。綺麗な横顔。


それを見た時、私の奥で眠っていた感情が目を覚ましたのか、思わず口から言葉が漏れた。



「…キス、したい」


風の音でかき消されてしまいそうなか細い声。言ってしまってすぐに後悔した。だけど、もしかしたら本人の耳に届いていないかもしれない。


そう思ったけれど…



「…は?今、なんて?」


ずっと目を合わせてくれなかった松村さんがやっとこちらを向いた。


その目には驚きと戸惑いが見える。


聞かれていた…?




「もし、キスしてって言ったら、どうします?」


「いや、何言ってんだよ」


今まで見せたことのない顔をする。動揺からか、目が泳いでいるように見えた。


「ダメ、ですか?」


「当たり前だろ。お前俺を何だと思ってんだよ」


その言い方には怒りが含まれていた。松村さんは立ち上がり、その場を去ろうとする。


「ま、待って!!じゃあ、少しだけでいいんで、抱きしめてもらえませんか…?」


急に襲ってきた疎外感。松村さんという存在が私を少しずつ変えていき、何かを勘違いしていたのか、はたまた調子に乗ってしまっていたのか。


"誰かに何かをしてほしい"なんていう気持ちを久々に持った。その伝え方、選び方を間違えたのかもしれない。



「…譲歩的要請法」


松村さんは何かを呟いたが、よく聞こえなかった。


「え?」


「…要求のレベル下げたって何もしねーよ。調子乗んな」


冷たい目で私を見る。一番最初に会った時に見た目と同じだ。


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