エーレの物語
人々が目を向けた先にいる王はエーレ青年をじっと見つめていた。その目には先程罪人に向けた目とは異なり、強い関心が秘められている。
青年は尚も続ける。
「彼の努力は賞賛に値すべきものであり、実際彼の作った料理で我々騎士団も、そして王も生きている。」
どよめきは益々大きくなるばかりだ。
罪状を説明するどころか栄誉を讃えられるというこの状況に観衆も、罪人である男も理解が追い付かないのだ。
王の裁定に否を唱えんばかりの物言いに遂に王は手を上げる。
一気に場が静寂に包まれた。
まさか王の側近とも言えるこの青年まで処刑されるのだろうか。
「エーレ」
青年は振り返らずに答える。
「はい。何です?」
余りに無礼な敬語とも呼べない敬語で、かつ王の方を見さえしないその態度に王は目を細めた。
「まさかお前ともあろうものが極刑を望むとは思わなんだ。お前の発言、態度、どれをとってもこの王への不敬であろう。」
側近をも即刻処刑せんとばかりの王の台詞に観衆は絶望する。決して王に逆らうことなどできないのだ。罪人の男は隣に立つ青年を呆然と見上げた。
「…エーレ殿…何で俺を庇うような…」
青年は詰まらなさそうな目で男を見下ろすと再度口を開いた。