エーレの物語
「いいえ、俺は王、貴方にこの身全てを捧げています。この忠誠心を疑われるとは心外ですね。」
青年はその敬意を全く感じない敬語のまま王への忠誠を誓う。
「話を戻しましょう。この男は俺にとって素晴らしく尊敬できる人間であり、料理長として多くの部下の信頼も集めていた。彼の料理は素晴らしく、国を侵さんとする魔物や他国の軍勢を退ける我々騎士団は本来は我が国唯一の身分格差の頂点である王家の人間と同じ人物が作る料理など食べられるはずがない。」
「しかし彼は戦闘に明け暮れる我々に料理を振舞ってくれた。我が王はそれを寛大にもお許しになった。我々騎士団は彼の、スピネル王国王家直属の料理長の恩恵を受けた筆頭に当たる。その恩が有るからこそ俺は、王の罪人を詳しく述べろという気まぐれに乗じてこの罪人の、我が恩人を讃えたわけですよ。わかりました?王よ。
話はまだ終わってないんです。全部終わってから俺を処刑なり何なりなさってください。」
処刑場は沈黙に包まれたままである。この無礼に無礼を重ねた青年の発言は王の裁定を完全に否定するものであり、そして王の圧政に恐怖する民の希望そのものだったのだ。
誰もが王の次の言葉を聞き逃さんとする。
王が口を開いた。
「続けよ」
一気に場が沸き立った。先程まで絶望に包まれていた観衆の表情は今や青年の言葉に期待する明るい表情に変わりつつある。
栄誉ある罪人は自分が助かる未来を確か今見つけたのだ。
青年が言葉を発する。