Elevator Girl
笑顔に胸がきゅーっとなった。

それと同時に、何故か覚悟がついた。


「相模、くん?...白い紙とペンを貸してくれますか?またいつか返すので。
それと、今日はごめんなさい、ありがとう」



逃げるように私はエレベーターに乗って、53Fに向かう。
4Fから53Fへ昇るうちに、この15年が走馬灯のように流れる。



チーフ、
チーフは厨房に入る時、結婚指輪をとるでしょ?
私ね、その瞬間が好きだった。

あ、二人だけの時間だ。
って思ってしまった。


何もかも全部、チーフでいっぱいだった。
...だっさ。だっさいよ、私。





「津田さん、遅かったじゃないですか!いつも一番乗りなのに」

「...ごめんっ。チーフ、もう来てる?」

「はい。厨房にいますよ」

「ありがとう」


厨房で一人、仕込みをしている後姿。たしか、一か月後のバレンタインのメニューのはずだ。

チーフ、今までありがとうございました。

って言えるはずなのに。言わないとダメなのに、どうしても言えなくて、
近くの机に、さっき書いた退職届をおいた。





さよなら。


心の中で呟いて、店を出た。                                                                                                           
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