Elevator Girl
胸が詰まりながら、ゆっくりと口を開いた。

「……桜庭ってさ、意地っ張りだよね?」


「え」


「2年前結婚するまで、一度もそんな彼女がいるなんて言ってくれなかった。

料理も納得いくまですごく練習してるの、みんな十分の一も知らない。

後輩にも厳しいけど、後輩のこと気にかけてるのは、桜庭が一番だって、私は思う」



言いながら、こんなことが前にもあったと思った。

桜庭を励まして、元気づけて、立ち直らせるのは、調理師学校の時から私の役目だった。



「でも、プライベートは別にしないと!

分かりにくいのはやめて、言葉にしないとダメ。

奥さん桜庭に、話して欲しいんじゃない?仕事のこと、悩みとかも全部。

桜庭は料理してる時が一番輝いてる、そこに自信もて!」



私が桜庭を励まして、桜庭が私を励まして。

二人で団結して、がむしゃらに頑張ってた時があった。

いいバディだったよね、私たち。

今ならそこに、戻れる気がする。




「……かおる」

桜庭の腕が、優しく私を閉じ込めた。

「………これは友情を確かめあうハグだよね?桜庭、そうだよね?」


「………そうだな」


深い息を吐いて、桜庭は振り切るように私から離れた。


桜庭の下手くそな、でもすっきりした笑顔を見て、
この15年の恋がやっと終わったことが分かった。                                                                                                 
< 42 / 67 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop