Elevator Girl
桜庭が去っていくのを見送りながら、心の中で謝った。


私は、一つ嘘をついている。

今日、一番の出来のフォンダンショコラを残していること、言わなかった。


ごめん、
でも待ちたい、せめてバレンタインデーが終わるまで。




その時、スマホが光って点滅した。

私は僅かに震える指で、電話を取る。


「…もしもし」

「薫さん、今日は行けなくて本当にごめんなさい!

前に担当した患者さんのことで、バタバタして」


「いいけど、それは大丈夫なの?」

「はい、とりあえずは。今、北海道にいるんです」


「遠っ!!」

「薫さん、今から来ませんか?」

「えっ」


明日はビル全体がメンテナンス休み。

いつもなら、毎年2月15日は二日酔いで引きこもる予定、なのに。


「僕、新千歳で待ってます。…僕のことが好きなら、来てください!

わがままな事はわかってます。その、…待ってます」                                                                                           
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