Elevator Girl

2月14日

お昼時のエレベーターは混雑している。

多くの人をさばくのはもちろん、お昼ご飯のおすすめをしたりと、
エレベーターガールにとって、一番の繁忙期である。


やっとピークを過ぎて、もうすぐ2時。10Fから、いつも同じ人が乗ってくる。


「こんにちは」

「お疲れ様です。久堂さん」


そして、いつも同じ質問。


「日向さん、今日のおすすめは?」




このエレベーターの担当になって早一年。

毎日同じ質問を繰り返された。


「今日は、2Fの新しいカフェの開店日です。
バレンタイン仕様のデザートがおすすめですよ」


にっこり笑って答える。


この笑顔と答えが自然に出るようになるまで、どれだけ苦労したか…!

久堂さんのお蔭で、全レストランのメニュー、シーズン企画まで頭に入っている。



「…今日はバレンタインか」


「そうですよ!…あ、甘いものお嫌いでしたか?
デザートだけでなく、お食事も美味しいと評判ですよ」


すかさずフォローをする。
でも、きっと2Fに行くと分かっていた。

なぜなら、久堂さんは必ず、私がおすすめした店に入る。

それがプレッシャーでも、自信でもあった。



今日もその期待は裏切られなかったが、ひとつ大きな違いがあった。



「では、日向さんも一緒にどうですか」




爽やかな微笑みと共に、爆弾がふってきた。                                                                                                 
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