いつまでも弟だと思うなよ。
チカちゃんの両手が、私が逃げられないように左右ドアに手をつけている。
触れそうで触れてないその絶妙な距離感覚に心の何処かで感心しながら、また私の中で危険信号が鳴ろうとしていた。
「可奈、頼むから怒らないで」
「…っ、」
それでも、切なそうな声でそう言われると叱るまでが戸惑われてしまう。
「すぐ離れるから。少しだけ」
今日のチカちゃんは変だ。
チカちゃんが分からない。
数秒後、チカちゃんは本当に離れてくれた。
「じゃ、また明日起こしに来るから。…ばいばい、チカちゃん」
「…ん」
あくまでも平静を装って、けど早くこの場を立ち去りたい一心で部屋を出る。
こんなにも困惑したのに、次の日のチカちゃんは何事もないいつものチカちゃんだった。