いつまでも弟だと思うなよ。
─────それからの記憶は曖昧だった。
動揺した勢いでチカちゃんを押し退けて、逃げるように教室から出たことだけは覚えてる。
その時のチカちゃんの表情とか、どういう道のりで今現在自分の部屋にいるのだとか、そこらへんの記憶は飛んでしまっていた。
「な、んで…っ」
絞り出すように呟いて、そっと唇をなぞる。
なんで?チカちゃん。
どうして、キスなんかしたの…?
気付けば涙まで溢れていて、私の思考はぐちゃぐちゃだ。
さっきの出来事で、私はようやく理解した。
チカちゃんはもう、可愛い可愛い弟なんかじゃない。
知らないうちに、彼はちゃんとした男の人になっていたんだ────。