年上の彼。
「ど、退いてくださいっ……」

「いーや。逃げるだろ?」

「当たり前です!」

「壁ドンしたら大抵の女子は落ちるんだろ?」

「ッ!?し、知りませんってば!」

「………玲奈、好きだよ?」

ーーーッ!??

一瞬、息をするのを忘れた。

「……ま、また、からかってるん、ですか…?」

「あの漫画の主人公は、玲奈じゃない」

知ってますとも、熟読してますから。

玲奈…… それは私の名前だ。

「漫画のやつ全てしてやる。だから俺に落ちろ」

なんとも強情な台詞。

「そんな、急に言われても……」

「きっと玲奈は俺のこと好きになるし…… 俺が好きにさせるよ」

「………えらい自信、ですね?」

「お前が社会人になるまで結構待ったからな?」

「……ん?どういう事ですか?」

「まっ、大人の事情だよ。とりあえずキスさせて?」

「はあ?展開が急すぎません?……てか私は貴方の事まだよく知らないし……」

「おい。……名前。貴方じゃなくて名前。知ってるだろ?」

少し不貞腐れた彼の顔はなんだか年上なのに子供っぽく感じた。

「え、えっと…… い、五十嵐、さん?」

「はあ…… 拓海。はい、呼んでみて?」

そんな溜息をつかれましても、いっぱいいっぱいなんですけど。

「た、たく、み……くん。」

「うーん、……5点。今度名前で呼ばなかったらキスするからな?」

「ッ!?何で貴方に決められなきゃっ………あっ。」

口元を手で隠しても後の祭り。

ニヤッと口角を上げた彼は私の手を一瞬ではがし、柔らかい感触をもたらした。

「…ぅう、んんっ……」

「……玲奈、息しろよ…?」

驚くほどに柔らかい唇に吐息が絡まり息をつく間も与えない。

ほのかに香る甘い匂いまるで媚薬のようだ。

「………ぷはっ ……く、苦しい」

「色気ねぇな。全く……ほら、おいで?」

両手を広げ待ち構えているシチュエーションは私が大好きな漫画の一コマ。

「ほら、早く。5、4、3、2っ……

思わず胸に抱き着いた。

「これ、好きなシチュエーションだろ?」

「……え?な、なんで知ってるの?」

「何年見てきたと思ってんの?」

そう言った彼の顔はたいそうご満悦そうで。

「あのぉ…… ふつつか者ですが、ど、どうぞよろしくお願いします」

せっかくのご好意に一応返事をしてみたものの応答がなくて彼を見てみると、ポカーンとした顔をしていた。

「あ、あのぉ……

「やべ。こんな嬉しいんだな」

何やら一人でボヤいていて。

「玲奈、大事にする。いっぱい愛してやるよ」


今まで見た事のない優しい笑顔で私に囁いた。



fin.
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