淡恋さくら

「アイツが責任感じることないのに。俺が悪かったんだから」

 しおらしくつぶやく。トキヤの横顔には寂しさや後悔みたいなものが消えては浮かび、また消える。それは、毎年咲いては散る桜の花びらのように儚くて美しい色をしていた。

「誰も悪くないよ。もちろんトキヤも」

 トキヤのことをこのまま枯れさせたくない。強くそう思った。

「たまたま巡り合わせが悪かっただけだよ。お姉さんも、西君も、トキヤも、みんなそれぞれ頑張ったんだと思う」

「サクラ……」

 知ってた。私のことを名字じゃなく、いつしかあだ名で呼ぶようになったトキヤのことを。知らないフリしていたかった。その方が平穏でいられたから。

 だけど、その平穏も手放す時が来たのかもしれない。

 トキヤから向けられる静かな想いを、けっこう前から感じ取っていた。知らないフリをしてきたのは、恋の橋渡し役に甘んじていた方が楽だったから。

「サクラの冷たい態度、逆に惹かれた。そんな女子、初めてだったし」

「サラッとモテる自慢したな今。苦手だったんだよ、トキヤのこと」

「知ってる。今は?」

「ただの鬼畜じゃないことは西君が証明してくれた、とだけ」

「やっぱりお前は他の女と違うな。外見じゃなく中身を見てくれる」

 初めてだった。今まで無愛想な顔しか見せなかったくせに、どうして今はそんな嬉しそうに笑うの? 胸の中で静かに波音が立つ。

「見てあげたくて見たんじゃなくて、見るしかなかったというか、西君が見せてきたというか……」

 しどろもどろな答え。どちらにしろ、動き始めた気持ちは止まりそうになかった。

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