その件は結婚してからでもいいでしょうか
二時間後、美穂子はやっとアシスタント部屋から抜け出した。先生に怒鳴られた後じゃあ、とても一緒の部屋にはいられない。マンションのエントランスで、小島さんに電話をかける。
「美穂ちゃん、どした?」
電話の向こうの小島さんは、いつもと変わらず明るい。
「すいません、ご迷惑だとは思うんですけど、今日だけ一晩泊めていただけませんか?」
美穂子は鼻をすすりながら、そう伝えた。
「いいよ、別に。おいで」
なんの抵抗もなく、小島さんは二つ返事でオッケーしてくれた。
小島さんの部屋は、電車でしばらく行った武蔵小杉というところ。目黒へのアクセスはいいけれど、結構手頃な家賃で住めると以前小島さんが言っていた。
夜の遅い時間にもかかわらず、小島さんは駅まで迎えにきてくれた。
「美穂ちゃん、大丈夫?」
美穂子をいたわるように、背中に手を回して歩き出す。
駅前は華やかだが、少し行くとすぐに静かな住宅街。徒歩十分ほどで小綺麗なアパートにたどり着いた。
「すいません」
美穂子は頭を下げた。
「いいって。彼氏はネカフェに行かせたから、今日は二人きりだよ」
小島さんがニコッと笑う。
「ほんと、ありがとうございます」
美穂子は再び頭を下げた。