その件は結婚してからでもいいでしょうか

小島さんの部屋はワンルーム。そこに小島さんと彼氏の荷物があふれていた。

「ごめんね。散らかってて」
小島さんが荷物をどけて、美穂子の座る場所を作った。

「カフェオレ作るけど飲む?」
「ありがとうございます」

美穂子はラグの上に座り込んで、ほっと息をついた。

なんで小島さんを頼ったのか、自分でもわかってた。一番話を聞いてくれそうだからだ。山井さんはダメ。あの人とわたしの好きな人は、同一人物だから。

カフェオレをテーブルにおいて、小島さんが目の前に座る。

「さて、どうした?」
小島さんがたずねた。

「……拒否されました」
口に出すと、さらに一層打ちのめされる。「なおかつ怒らせちゃいました」

小島さんが「ああ」と相槌を打つ。腕を組んでしばらく美穂子を見つめた。

それから「それって、この間一緒にいた『彼氏』っていう人だよね?」と尋ねた。

「『彼氏』じゃないんです。この間は先生の冗談で」
「先生って呼ばれるくらいの、売れっ子漫画家なの?」

そこでハッとする。桜よりこ先生だってバレちゃいけないんだった。

首を振る。
「……青年誌なんで、小島さんはご存知ないと思いますが」
苦し紛れの嘘をつく。

「へえ。なおちゃんなら知ってるかな? あ、わたしの彼氏ね」


< 101 / 167 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop