その件は結婚してからでもいいでしょうか
小島さんの部屋はワンルーム。そこに小島さんと彼氏の荷物があふれていた。
「ごめんね。散らかってて」
小島さんが荷物をどけて、美穂子の座る場所を作った。
「カフェオレ作るけど飲む?」
「ありがとうございます」
美穂子はラグの上に座り込んで、ほっと息をついた。
なんで小島さんを頼ったのか、自分でもわかってた。一番話を聞いてくれそうだからだ。山井さんはダメ。あの人とわたしの好きな人は、同一人物だから。
カフェオレをテーブルにおいて、小島さんが目の前に座る。
「さて、どうした?」
小島さんがたずねた。
「……拒否されました」
口に出すと、さらに一層打ちのめされる。「なおかつ怒らせちゃいました」
小島さんが「ああ」と相槌を打つ。腕を組んでしばらく美穂子を見つめた。
それから「それって、この間一緒にいた『彼氏』っていう人だよね?」と尋ねた。
「『彼氏』じゃないんです。この間は先生の冗談で」
「先生って呼ばれるくらいの、売れっ子漫画家なの?」
そこでハッとする。桜よりこ先生だってバレちゃいけないんだった。
首を振る。
「……青年誌なんで、小島さんはご存知ないと思いますが」
苦し紛れの嘘をつく。
「へえ。なおちゃんなら知ってるかな? あ、わたしの彼氏ね」