その件は結婚してからでもいいでしょうか
美穂子はぐっと詰まる。
拒否られたってことは、なんらか別の方法で男女の営みを知らないといけなくなるんだ。
「女性向けのエッチ漫画をかたっぱしから読んでみるとか、それか頑張ってビデオを見て研究するか、それとも」
小島さんがニヤッと笑う。
「他の男子に抱いてもらうか」
美穂子の血の気が失せる。
あんなキスを、他の誰かとするってことだ。
「もちろん、この仕事を逃してもいいならさ。そんなことする必要ないよ。でもすごいチャンスじゃん。 わたしなら飛びつく。何がなんでも食らいつく。ずっとアシスタントでいたいわけじゃない。わたしたち『漫画家』になりたいのよ」
小島さんの目がキラリと光った。
「漫画家」
美穂子はつぶやく。
そうだ。ずっとそれを目指してきた。読者じゃなくて、描く側になりたいって思ってたんだ。
先生が描くときを思い出した。
飲み込まれそうな気迫。圧倒的なオーラ。ああいう人にわたしだってなりたい。
「なりたいです、漫画家」
美穂子は言った。
言葉にするとそれは強い意志を持ち始める。
「そうこなくちゃ」
小島さんが大きく頷いた。
「『エロメン』なる人を紹介してください。わたし、仕事のために自分を使います」
「オッケー」
小島さんがにこりと笑った。