その件は結婚してからでもいいでしょうか

翌日の夜、小島さんが出会いの場を設けてくれた。

考えてみれば、美穂子は先生の連絡先を知らず、先生も美穂子のを知らない。

先生になんの連絡もしないで、心配してないかな。

ふとそんなことを考えて、慌てて首を振る。

先生のことは考えないんだ。今日は大事な研究の日。漫画家になるため、覚悟を決めたんだから最後まで貫き通すんだ。

目黒のおしゃれな居酒屋。暗めの店内。カウンターの奥では、炭火焼きの炎が上がっている。

「こちら、美穂ちゃん」
小島さんが言う。「かわいいでしょ。ピュアな感じでさ」

「はじめまして、よろしく」
目の前の男性が爽やかに挨拶した。

「こちらはノリくん。一部では有名なんだよ」
「わー、やめてよ」
ノリくんが顔を赤らめる。

「は、はじめまして」
美穂子は頭を下げた。緊張で手のひらがびっしょりと濡れている。

「じゃあまずは乾杯」
小島さんはどんどん仕切ってく。

みんなの前にビールが並ぶと、「乾杯」とグラスを合わせた。

やけに喉が乾く。

美穂子はビールを飲み干した。

『よそでお酒飲むのは禁止。あまりにも酒癖が悪すぎる』

頭の中に先生の声が響いたが、美穂子は無視をした。

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